昭和のマンガのなかのグルメ3選。子供たちが憧れたのには「背景」があった
誰もが思い浮かべる「おでんのシルエット」
●家のおでんとは決定的に違う「チビ太のおでん」

赤塚不二夫氏のマンガ『おそ松くん』に登場したチビ太のおでんも、子供たち垂涎のマンガグルメでした。おでん自体は冬の食卓の定番でもあり珍しくもありませんが、「チビ太のおでん」だけは特別です。家のおでんは鍋に入って出てくるのに、チビ太が手にしていたのは三角と丸と四角の具材が串に刺さった、家では決して目にしない形状だったのですから。
この形も、今ではおでんのアイコンとして定着していますが、子供心に「あんなおでん、いったいどこに行けばあるんだろう?」と思っていたものです。昭和の子供たちの「一度でいいからあのおでんが食べたみたい」という願いは、1993年にコンビニによって叶えられました。サークルK・サンクスがその名も「チビ太のおでん」として発売したのです。
かつての昭和キッズは憧れ続けたあのシルエットのおでんを手にして、「これがチビ太のおでんかぁ」としみじみしたものですが、実は発売された具は作中のおでんとは少し違い、時代によっても変遷していきました。赤塚氏によると、マンガに出てきた元祖チビ太のおでんは、上から、コンニャク・がんも・ナルトだったそうです。
●『新オバケのQ太郎』でQちゃんが食べた「コップヌードル」

「マンガ肉」「チビ太のおでん」と違い、「コップヌードル」には、世界初のカップ麺である日清カップヌードルというモデルがありました。『新オバケのQ太郎』に登場(「小学一年生」1973年2月号)する1年半も前からすでに発売されていたのですが……都会の子供ならいざ知らず、インターネットもSNSもなく情報にうとい田舎の子供たちにとっては、まだまだ未知の食べもの。カップにお湯を注ぐだけでラーメンが作れてしまうなんて、それはまさに未来食の世界でした!
マンガの中でQちゃんは、カップヌードルならぬコップヌードルを食べようとお湯を入れたのですが、おつかいを頼まれたりしてなかなか食べることができず、さらには家の前で子供が車にひかれそうになっているのを助けたりしていて、いざ食べようとしたら、おかゆのようにのびきってしまい、大号泣します。けれども最後には、子供を助けたお礼にとコップヌードルを箱ごともらい、お風呂をコップヌードルでいっぱいにして幸せそうにすすっていました。
今では日常食になったカップ麺ですが、あの時のQちゃんのコップヌードルは「未来」を見せてくれた憧れのマンガグルメとして、忘れることができません。
(古屋啓子)