『ガンダム』「坊や」と馬鹿にされがちなガルマ 実はジオンの「救世主」となりえた?
『機動戦士ガンダム』でシャアに裏切られ悲運の死を遂げたガルマ。シャアはガルマを「坊やだからさ」と評しましたが、それは悪いことだったのでしょうか。ガルマの「お坊ちゃん」性と、彼に課せられたザビ家における本当の役割について考察します。
「坊や」だからこそ価値があった?

『機動戦士ガンダム』のザビ家といえば、デギン公王の4人の子供たちが有名です。IQ240の天才にして総帥、冷徹なる長兄のギレン。突撃機動軍司令で独自の諜報機関(キシリア機関)を擁する長女キシリア。宇宙攻撃軍総司令官にして身長210cmの堂々たる体躯を誇る武人、三男ドズル。
そして国民に高い人気を誇る甘いマスクとナイーブなメンタルを持つ末弟、地球方面軍司令のガルマ。
かつてシャアはガルマ国葬の演説を聞きながら「坊やだからさ」と評しましたが、「坊や」であることはガルマの欠点だったのでしょうか。
確かにガルマはザビ家一族のなかではもっとも若く、既に国家の運営に関わっている兄妹に追いつこうと、功に焦るおぼっちゃんでした。その世間知の不足による脇の甘さから、復讐心を隠しながら自分に近づいてきたシャアに心を許し、土壇場で裏切られてしまいます。
しかしそんなガルマのお坊ちゃん性こそ、反目しあう一族を繋ぎとめる扇の要であり、ザビ家のイメージアップに貢献しているとしたら?
この記事ではザビ家のなかでガルマがどんな役割を負うべきだったのか、語られざる側面について考察します。
●骨肉の権力争いで崩壊寸前のザビ家
ジオン公国の支配者であるザビ家一党。独裁者の一族らしく国家の要職を分け合っていますが、兄妹が不仲のため派閥争いが絶えません。
半ば引退状態のデギン公王に代わり、長兄ギレンが総帥として政治・軍事を束ねているものの、彼には強い野心があります。穏健派の父王と対立しており、最終的には講和へ赴くデギン公王を乗艦ごとソーラレイで謀殺してしまうほどです。
長女キシリアはというと、父デギンに叛意(はんい)を持つギレンに軍事面・政治面で対抗し、自前の諜報機関まで持っています。しかしデギン公王の死を知ると、宇宙要塞ア・バオア・クー防衛戦の真っ最中にも関わらず司令官のギレンを射殺!
その結果、ジオン全軍の指揮系統が乱れ戦況は不利に傾きます。キシリアは家族間の個人的な仇討ちで全軍を崩壊させてしまったと言えるでしょう。そしてア・バオア・クー陥落後は、彼女自身もまたシャアの手にかかって命を落とします。
三男ドズルは実務肌で現場主義のため、陰謀を巡らすギレンやキシリアから軽く扱われがちで、穏健派である父デギンとも関係が良くありません。
こうしてみると、地球連邦に比べて30分の1しか国力がないにも関わらず、ジオン公国は十分に協力できておらず、危ういバランスを保ちながら戦っていたことが分かります。
しかし希望があります。ザビ家には全員とそれなりに良好な関係を築く人物がひとりだけいるからです。それが末弟のガルマです。