『グランツーリスモ』生みの親・山内一典が明かす、「GTアカデミー」誕生秘話と映画制作の裏話
「グランツーリスモ」生みの親から見ても、丁寧かつ緻密な映画

その思いが結実し、レーサーを目指す若者にとっての夢の登竜門となった「GTアカデミー」。このプログラムを通して実際のレースの世界に関わりを持っていく中で、山内氏も当初は思いもしなかった部分で自身の心境が変化していったそうです。
「『グランツーリスモ』を通じて学んだドライビング・テクニックが、リアルなレースの世界に通用することに関しては疑いを持っていませんでした。ただ、僕も『GTアカデミー』のプロジェクトが始まるのと合わせて初めて深くモータースポーツの世界の内側をだんだん知っていくわけです。ひとりのドライバーをあれだけ大勢で構成されたチームがサポートしながら走らせて、勝負するというやり方は、他のスポーツとは大きく違うところがある。彼らがやっていることは、本当に『戦場』に近い。そんな世界で、『GTアカデミー』から輩出されたドライバーたちは、デビューするやいなや次々と勝ちまくっていくわけですが、同時に心配も増えました。命の危険にさらされる可能性もそうですし、レース業界は次から次へと勝負で勝ち続けなくてはいけない世界なので。そういう厳しい世界に引き入れてしまった彼らの人生について心配するようになりました」

映画の中では、「GTアカデミー」に選抜されたゲームプレイヤー出身のレーサーは「シムレーサー」と呼ばれ、実際の運転経験の少なさをバカにされるシチュエーションが登場します。現在では、実力によって、ゲームプレイヤーが一流のレーサーになることは証明されており、そうした低い扱いは映画としての演出とも取れる表現ですが、実際には「GTアカデミー」に参加したプレイヤーたちの扱いはどのようなものだったのでしょうか?
「『GTアカデミー』が開始した2008年当初、確かに彼らはそういう扱いを受けていたと思います。ただ、『GTアカデミー』のウィナーが実績を上げるにつれ、違う意味での批判も出てきました。例えば、劇中でヤンが出場していた『ADAC GTマスター』のようなレースでは、アマチュアドライバーはプロと組んで出場してもいいというハンディキャップルールがあります。当然『GTアカデミー』出身者はリアルサーキットでのレース経験が無いからブロンズと呼ばれるアマチュアクラスでエントリーするわけです。でも、『GTアカデミー』の選手は初年度から皆かなり速かったので…。レース経験のあるプロよりも速かったりしたので、『あれはズルいだろう』『あれはアマチュアじゃない』と言われるようなことはありました(笑)。彼らは、実際にゲームの中で有名サーキットを何千周もするようなプレイをしていて、実車には乗ってなくても経験としてコースを知り尽くしていますからね。さらに当時でも『グランツーリスモ』は世界各国・各地域に相当数の競技人口がいて、そこからレーサーになった彼らは、その中のトップ中のトップになるわけですから、とてつもない才能があると思います」

そうしたゲームプレイヤーからレーサーへとステップを上がるドラマが描かれる「GTアカデミー」から派生した映画『グランツーリスモ』。本作で映画のエグゼクティブプロデューサーも務める山内氏は、制作にはどのように関わり、どのような希望を伝えたのでしょうか? そして、完成した映画の仕上がりにはどのような感想を持ったのでしょうか?
「映画の制作に関しては、基本的にはソニー・ピクチャーズの皆さんにお任せした形です。なので、僕自身が関わっていたのはスクリプトの第一稿までですね。その段階で僕から申し上げることはそんなにはなかったんです。ただ、ひとつだけ脚本家の方から相談を受けたのは、劇中のとあるレースの展開で『ゲーマーならではの視点を入れる事はできないだろうか?』というものでした。そのレースで、『GTアカデミー』出身のヤンがどのような走りをするのか。『グランツーリスモ』をプレイして劇中に登場するコースを何千周も走り込んでいるからこそできる走り方があると思い、ちょっとだけアイデアを出しました。映画自体は紆余曲折があってようやく出来上がったもので、結果的には素晴らしい映画になって良かったなと胸をなでおろしています。いわゆるエンタテインメントとして、見た人の気持ちをポジティブにさせてくれる映画であると思いますし、一方で細部まで緻密に、丁寧に作られてもいるので、そうしたこだわりも『良かった』と思わせてくれる仕上がりになっています」















