書店から消えた名作マンガの数奇な軌跡 矢作俊彦&大友克洋の『気分はもう戦争』
「気分はもう戦争」シリーズのファンを襲った衝撃

ところが藤原カムイ版が終了して4年が経過した2006年。思いがけない衝撃がファンを襲います。
「矢作俊彦【暫定】オフィシャルサイト」が立ち上げられて、そこで矢作俊彦さんによる完全新作の小説『気分はもう戦争』第1章が発表されたのです。
200X年6月4日、福岡空港に国籍不明機(アンノウン)が着陸。中国海軍を名乗る謎のパイロットが降り立ち、スターバックスのキャラメルマキアートを要求する冒頭に、あの『気分はもう戦争』が帰ってきたと、ファンは喜びの声をあげました。
しかし第1章の公開からおよそ1か月後、第2章(後半)が掲載されて以降、「諸般の事情」から「矢作俊彦【暫定】オフィシャルサイト」Topページは「工事中」となり、小説へのリンクが断たれてしまいます。
当時、SNSでファンの間で流れたうわさによれば、当時、矢作俊彦さんがプロデュースする予定で『気分はもう戦争』の映画化が進行しており、この小説は、それに連動した企画だったのではないかと。
しかし、その後映画化の情報が公式に発表されることはなく、同サイトも小説の第3章は発表されないまま現在に至ります。
これで『気分はもう戦争』も終わりかと、多くのファンが思った2010年。今度はなんと角川書店の小説の刊行予定に『気分はもう戦争』がラインナップされます。 この小説『気分はもう戦争』と、矢作俊彦【暫定】オフィシャルサイトで発表されたもののつながりは分かりませんが、目ざとくその情報を見つけたファンは、新作が読めるかもという一縷(いちる)の希望にすがり待ち続けました。
しかし、刊行予定は延期に延期を繰り返し、気が付けば2012年。やはり今度もダメだったのでは諦めかけた頃、意外なところから新情報が舞い込みます。 1月に発売された大友克洋さんの画集『OTOMO KATSHUHIRO ARTWORK KABA2』に、迷彩服に甲冑姿、中世騎士風など時代をこえた世界各国の兵士の姿がひしめく小説『気分はもう戦争』と題されたイラストが掲載されました。なんと小説の発売より先にカバーイラストが世に出たのです。
さすがにここまで来れば頓挫はなかろうと、ファンは胸をなで下ろしましたが、そう簡単にはいかないのが『気分はもう戦争』です。7月に入り作者である矢作俊彦さんはX(旧:Twitter)のアカウント上で、元担当編集だった出版社社員とのいさかいを明らかにします。
そして「大友君、表紙を描いていただいたのにすまない」「宣言する。このままなら、もう角川からは一切本は出さない」との投稿が……。 結果として小説版『気分はもう戦争』は未だに発売されず、KADOKAWA公式サイトでは矢作俊彦さん関係の作品は書誌データこそ残っているものの、購入可能な書店へのリンクが断たれた品切れ重版未定の状態となっています。
こうした紆余曲折を経て2019年。最初の『気分はもう戦争』が連載された「週刊漫画アクション」に、38年ぶりの原作・矢作俊彦、マンガ・大友克洋による完全新作短編『気分はもう戦争3(だったかも知れない)』が掲載されました。
本作で時代は20XX年。沖縄自治県で自衛軍相手の人材派遣業に勤しむハチマキ、中華東北共和国で開発コンサルタントを務めるめがね。アフリカのヤンバサネグロ共和国のベースボール監督に就任しているボウイと、何やらヤバイことが起こった後の世界で、初老を迎えた第一作の主人公たちの姿が描かれていました。
同作は2016年の「漫画アクション」50周年記念作品として企画されたものの、大友克洋さんが「ペンが使えなくて」、3年遅れての発表になったそうです。しかし、これまで長い年月を耐え忍んできた『気分はもう戦争』ファンにとって、そのくらいの遅れはもはや誤差の範囲内。掲載誌を複数購入する人も多数現れました。
さて、こうした数奇な経緯を辿ってきた「気分はもう戦争」シリーズですが、最初の単行本である双葉社の大友克洋版も、いつしか品切れ重版未定となっています。
そして短編『気分はもう戦争3(だったかも知れない)』が掲載された「漫画アクション」を含めて電子書籍化もされていないため、刊行されていない小説版は元より、すべての既刊が書店で新刊として入手することはできず、読むには古本を探すしかないのです (大友克洋版は、現在刊行中の大友克洋全集に収録されるとは思いますが、まだ刊行ラインナップにタイトルがあがっていないのでいまだ予断を許しません)
と、まあ気軽にお薦めはできない状況ではありますが、わずか3冊の単行本と1作の短編、未完のWeb小説で40年近くファンを魅了し続ける唯一無二の作品だけに、もしこの文章を読んで「気分はもう戦争」シリーズに興味を持った高校生や未読の方がいたら、長年のファンとして幸甚の極みです。
(倉田雅弘)

