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興行的には大成功の『ナウシカ』 しかし制作者からは“低評価”←いったいなぜ?

宮崎駿氏の監督作『風の谷のナウシカ』 プロデューサーを務めた高畑勲氏は本作に信じられない点数をつけます その真意とは

高畑氏からつけられた点数に宮崎氏が激怒?

笑顔で「グッジョブ!」するナウシカ。画像は『風の谷のナウシカ』静止画より (C)1984 Hayao Miyazaki/Studio Ghibli, H
笑顔で「グッジョブ!」するナウシカ。画像は『風の谷のナウシカ』静止画より (C)1984 Hayao Miyazaki/Studio Ghibli, H

 映画『風の谷のナウシカ』は、のちの「スタジオジブリ」へとつながる記念碑的作品です。宮崎駿氏による同名マンガが原作で、脚本、監督も宮崎氏が担当しました。そして肝心のプロデューサーが高畑勲氏だったのです。

『ナウシカ』の興行収入は公開当時で14.8億円でした。『千と千尋の神隠し』が316億8000万円、『もののけ姫』は201億8000万円と、のちのスタジオジブリ作品の興行収入と比較すると、おとなしめに思えてしまうのですが、世間の評価は軒並み高く、「文化庁優秀映画製作奨励賞」、「月刊アニメージュ アニメグランプリ 作品賞」、「日本アニメ大賞 最優秀作品賞」、「日本SF大会星雲賞 メディア部門 第1位」……などなど各界の賞を「総なめ」にします。かのマンガの神様、手塚治虫氏も『ナウシカ』を観て非常に悔しがったと言われています。日本中が「宮崎駿」という巨大な才能に気付いた瞬間でもありました。

 さて世間的にはほとんど無名だったのに、一気にトップクリエイターの座に躍り出た宮崎氏ですが、彼自身は『風の谷のナウシカ』をどのように評価しているのでしょうか?

 賞賛の嵐のなか、宮崎氏は毎日新聞のインタビューで『ナウシカ』の出来に「65点」という低い評価を下しています。謙遜ではありません。実際、ラストシーンに心残りがあったのです。というのも、私たちの知る『ナウシカ』のラストシーンは、「ナウシカ」が「王蟲」の大群にひかれ、命を落とすも、奇跡的によみがえり、そこでエンディングを迎えます。

 一方、宮崎氏はというと当初は「ナウシカが、王蟲の群れの前に降り立って、群れの動きが止まったところでエンドマーク」という非常に渋いラストシーンを想定していたのです。このラストをめぐっては高畑氏、鈴木敏夫氏との激論の末、現行のものになりました。

 ではプロデューサーの高畑氏は本作をどのように評価したのでしょうか? 興行的には大成功と言って良いはずなのですが……映画完成後のインタビューでは次のように答えています。

「プロデューサーとしては万々歳なんです。ただ宮さん(※宮崎駿)の友人としてのぼく自身の評価は、三十点なんです。」

 卒倒ものです。思わずインタビュアーが聞き返してもなお「三十点」の評価は変わりませんでした。高畑氏らしい採点といえば簡単ですが、一体なにゆえにこんな評価を下したのでしょうか? インタビューでは続けてこのように答えています。

「この映画化をきっかけに宮さんが、新しい地点にすすむだろうという期待感からすれば三十点ということなんです」

 ……つまり、遠回しに「この人の実力はまだまだこんなものじゃない」という高畑流の激励だったといえるでしょう。しかしながら、これを知った宮崎駿氏がどれほどショックを受けたかは想像に難くありません。実際、この「三十点」発言が載っている分厚い雑誌を鈴木氏の目の前で引き裂いたといいます。いかに宮崎氏にとって高畑氏の評価が重大なものであったかが伺えるエピソードです。

 結果として宮崎氏と高畑氏はスタジオジブリを設立、世界を代表するアニメ監督になったことは歴史が証明しています。いかに酷評されようとも絶縁するどころか互いに精神の一部となり、ジブリを牽引し続けたのです。天才同士の「友情」はなかなかどうして凡人には踏み込めない聖域が確かに存在するのでした。

(片野)

【画像】え、救いなさすぎでは? こちらは宮崎駿監督がラストにする予定だった場面です(3枚)

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