「ガンダム」シリーズのMSは「試作機」も多いけど現実でもあんなふうに高性能なの?
「ガンダム」シリーズのモビルスーツなど、兵器の試作機がやたら高性能というのは、創作物にはよく見られるものです。しかし現実はそうでもないようで、実戦投入され成果を挙げたとなると、レアケースになるみたいです。
「高性能な試作機」は現実的なのか?

「ガンダム」シリーズで、主人公や主要人物たちの搭乗するモビルスーツ(MS)が「試作機」や「ワンオフ機(1機だけの特別仕様機)」として描かれることは多いようです。
その独自性や高性能は、物語の魅力を支える重要な設定です。しかし、現実の軍事において、試作機が高性能で、実戦で大いに戦果を挙げる存在であるかどうかというと、別の話だといえるかもしれません。
試作機は実験台として設計されています。新型エンジン、先進的なセンサー、革新的な武器システムなど、最先端技術が搭載され、その実用性がテストされます。ですが、それは同時に「試行錯誤の場」であり、不具合の洗い出しや改良を行うための場ともなります。
試作機は理論上の性能を追求する反面、実戦運用を前提とするための完成度には欠けることが少なくありません。たとえば、耐久性や信頼性、メンテナンス性といった面では不完全で、戦場での長期運用には適していないことがあります。特に現場での迅速な修理や継続的な運用を求められる実戦環境では、試作機が持つこれらの欠点により、肝心なときに動かないというような、足手まといになることも考えられます。
具体例として挙げられるのが、アメリカのF-35戦闘機の「システム開発実証機」です。この段階では、ソフトウェアの動作が不安定で、コンピューターを4時間ごとに再起動しなければフリーズしてしまうという致命的な問題を抱えていました。このような事例は、試作機の段階では珍しくありません。
試作機が実戦に投入されることは例外的ですが、全くないわけではありません。ただ、試作機が実戦に使われるのは、緊急事態や技術検証のためであることがほとんどです。
ロシアの最新鋭ステルス戦闘機Su-57はその典型例です。Su-57はまだ実用段階に至っていません。一方でシリア内戦やウクライナ戦争に投入されています。この主目的は、戦闘データの収集と技術検証であり、「実戦環境での最終テスト」としての性格が強いようです。Su-57が特筆すべき戦果を挙げたという報告はありませんが、戦場で得られたデータは量産型の性能向上に役立てられることになるでしょう。
一方で、試作機が目覚ましい戦果を挙げた歴史的事例も存在します。1942年のミッドウェー海戦では、日本海軍の試作機「十三試艦上爆撃機」(後の「彗星」)が偵察機として実戦投入され、アメリカ空母を発見しました。この情報に基づく航空攻撃により、日本海軍は大敗の中で敵空母を撃沈し、一矢報いることに成功しています。
試作機が特定の条件下で大成果を挙げることは確かにあるようです。しかし、これをもって試作機が量産機より優れているとは言いがたく、完成度や信頼性の面だけではなく、総合的な性能においても量産機が勝る、というのが一般的です。
試作機は軍事技術の進化において不可欠な存在ですが、最終的に戦場で主役となるのは量産機です。量産機は、試作機の成果と経験をもとに改良を加え、実戦環境で信頼できる性能を発揮します。現実の軍事において、試作機はわき役にすぎず、量産機こそが真の主役なのです。この点を踏まえれば、試作機は「物語の象徴」、量産機は「現実の象徴」といえるのではないでしょうか。
(関賢太郎)
