TV版『エヴァ』第弐拾弐話「せめて、人間らしく」 どうしようもない「アスカの不幸」に震撼?
確立した自己を持たないアスカの脆さ

アスカは作品中盤では、碇シンジや綾波レイとともに、時には単独で使徒を撃破するなど活躍を続けてきました。しかし第13使徒バルディエル、第14使徒ゼルエルに連敗し、シンクロ率も低下するなど、エヴァのパイロットとしての立場を失いつつあったのです。
シンジやミサトとの関係もギクシャクするばかり。義理の母親からの電話には流ちょうに対応しまましたが、シンジとの会話は一瞬打ち解けかけたもののアスカ自身が逆ギレして打ち切ってしまいます。このとき少し落ち着いていたら、その後の展開も少し違っていたかもしれません。
生理に苦しみ、さらに不調に陥ったアスカは、よりによってレイとエレベーターで乗り合わせてしまいます。このとき、実に50秒も静止画と沈黙が続いたため「何が起こるんだ!?」と、固唾(かたず)を飲んで見守っていた方もいたと思いますが、実際のところは制作体制が限界を超えたための苦肉の策だったようです。
レイとのひと悶着の後、使徒アラエルが来襲。アスカは零号機のバックアップを命じられたものの拒否し、独断で弐号機を出撃させます。
その後は悲惨の一言でした。アラエルの発した謎の光にアスカの心は侵されてしまったのです。エヴァのパイロットである以外、自分を確立できていない少女にとって、未熟で傷ついた心を覗かれるのは羞恥であり、屈辱でしかなかったのでしょう。最後に加持の名を呼んだのは、アスカが心の支えにしているものがどれほど少なかったのかを示していたように思えます。
アラエルは零号機が投擲したロンギヌスの槍によって倒され、アスカも命だけは取り留めました。しかし彼女の心には、精神崩壊へとつながる深い傷が残されました。
そしてその結末を、TV版で見ることは叶わなかったのです。