リブート版『新幹線大爆破』で再び注目、監督・主演が同じ『日本沈没』はなぜ批判されたのか
Netflixで4月23日より配信予定の映画『新幹線大爆破』と、同じく樋口真嗣監督作、草なぎ剛主演の2006年版の映画『日本沈没』を比較する声が多くみられます。なぜ『日本沈没』に厳しい評価が多く寄せられたのか。そして『新幹線大爆破』の出来栄えはどうだったのか。解説しましょう。
パニック映画と食い合わせが悪かった要素とは

話題の映画『新幹線大爆破』が、Netflixで2025年4月23日(水)から配信されます。本作は1975年の同題映画のリブート作品であり、さらにSNSではこれまで2006年公開の映画『日本沈没』と比較する意見が多く見られました。
なぜなら、大作日本映画の再映画化であることに加えて、樋口真嗣監督、草彅剛さん主演という大きな共通点があるからです。そして、正直なところ2006年版の『日本沈没』には公開当時から厳しい評価が寄せられていたため、『新幹線大爆破』も同じような失敗をしてしまわないかという不安の声も出ていたのです。
●2006年版『日本沈没』の最大の問題点
まず、2006年版『日本沈没』が不評を呼んだ理由を、振り返りましょう。当時からあった批評や、筆者個人の意見としても、最大の問題点は「恋愛要素」だと思います。小松左京さんの原作小説や、1973年の映画ではそれほど目立ってはいなかった、ラブロマンスをメインに据えたことはまだいいとして、問題はその描き方にありました。
2006年版では草彅さん演じる深海潜水艇の操艇者「小野寺俊夫」と、柴咲コウさん演じるレスキュー隊員「阿部玲子」の恋愛模様が多めに描かれます。
ふたりは災害現場で出会っており、その後に玲子が俊夫の服を直して渡しに行ったとき、小野寺は「深い海が好き」といった個人的な価値観を話したり、玲子はレスキュー隊員になったきっかけや震災のトラウマについて語ったりするのですが……セリフ回しが極端かつ不自然で、キャラクターの魅力を感じにくく、彼らが惹かれ合う過程も説得力に欠けている印象です。
その後の展開を見ても、小野寺が沈没しかけている日本各地にすんなりと移動しているのも不自然ですし、その小野寺が辛い心情を吐露する玲子に急にキスをする、その直後に玲子から「抱いて」と頼むなど、不自然で気まずく感じてしまう場面もありました。
1973年版の『日本沈没』は祖国を失い難民となってしまう日本人のイデオロギー、国内外の情勢、分かりやすい状況の説明など、「もしも日本が沈没するとこうなるかもしれない」という一種のシミュレーション的な要素も面白く、当時の特撮技術を最大限に活かした容赦ない災害描写も見どころで、いまも名作と支持される映画です。
対して2006年版は、災害パニック要素も、個人に焦点を当てたヒューマンドラマの要素も散漫で、「的を絞らずに話が進む」印象です。また、公開当時から多くの人が言及した「オリジナルの結末」も、原作の精神に反していると言わざるを得ません。
ただ、さすが樋口真嗣監督といえる2006年版『日本沈没』の美点は特撮のクオリティーです。壊滅的な被害を受けた各地の風景や、津波のシーンは強い恐怖を覚えますし、スーパーのレジでの混乱、高速道路の渋滞、満席続出の飛行機の時刻表、株価の暴落などを示し、市井の人びとがパニックになる細かな描写はなかなかにリアルでした。
●リブート版『新幹線大爆破』は『日本沈没』と比べてどうだったのか
さまざまな点で「失敗作」と言われるようになってしまった2006年版『日本沈没』ですが、では2025年版のNetflix配信の『新幹線大爆破』はどうかと言うと……先に試写で見たのではっきりと言いますが、こちらはものすごく面白い映画に仕上がっていました。筆者の勝手な見方ではありますが、樋口監督およびスタッフが、2006年版『日本沈没』の反省を活かしてここまでの作品ができた、と思えるほどです。
何しろ今回の『新幹線大爆破』には恋愛要素はほぼ皆無で、物語も「速度を落とすと爆発する爆弾を載せた新幹線の乗客たちをどう救うか?」という一点に絞っており明快です。冷静かつ理性的に事態の問題に立ち向かう鉄道人たち、パニックになりながらも各々の行動をする乗客たち、そして草彅さん演じる車掌の立ち位置など、明瞭なエンタメとしての土台が構築されており、ロジックに則った作劇も続くため、始終ハラハラして見ることができます。
これらの魅力は同じ樋口監督の『シン・ゴジラ』にも近く、SNSでの扇動などの令和の時代にあわせたアップデートも美点でしょう。とあるネタバレ厳禁の展開と、1975年版では叶わなかった、JR東日本の特別協力もあっての大きな見せ場にも興奮と感動がありました。
とはいえ、樋口監督らしいクセの強いキャラおよびセリフ回しは健在で、そこはやや好みも分かれるでしょう。しかし、それも含めて「同じことの繰り返しにしない」「日本が誇るエンタメを作る」という、気合いが伝わりました。
本作では特撮の迫力やケレン味も含めて、樋口監督の得意分野がしっかり打ち出されている、その最高傑作と言ってもいいほどの完成度になっているとさえ思えました。2006年版『日本沈没』を思い出して不安視していた方も、その汚名返上ともいえる傑作Netflix版『新幹線大爆破』を楽しんでほしいです。
(ヒナタカ)