『となりのトトロ』で描かれた生と死の季節。公式が否定した「都市伝説」も
トトロやネコバスを活躍させた原動力は?

宮崎監督のオリジナルストーリーである『となりのトトロ』は、とてもシンプルなお話です。メイは入院中のお母さんのことが心配になり、病院に向かおうとしますが、途中で迷子になってしまいます。メイが行方不明になったことに責任を感じたサツキは、懸命に探します。サツキはトトロたちの力を借りて、メイを見つける。それだけの内容です。
お話がシンプルな分、宮崎監督の天才アニメーターとしての力量が存分に発揮されます。サツキとメイがトトロの体にしがみ付いて夜空を舞うシーン、庭に植えたドングリがニョキニョキと芽を出すシーン、ネコバスが村を駆け抜けるシーンは、何度観ても飽きることがありません。
トトロが空を舞い、ネコバスが走る原動力となっているのは、サツキとメイの想像力と、「お母さんに会いたい」と願う気持ちです。少女たちのイノセントな想いが、トトロやネコバスといった不思議な生き物たちを呼び寄せていたのです。
宮崎監督の実体験が、この作品のベースになっているようです。宮崎監督が子供のころ、お母さんは結核治療のために入院していたそうです。かつて結核は「死の病」として恐れられていました。お母さんを失ってしまうかもしれないという子供時代に味わった恐怖心、宮崎監督の自宅に近い狭山丘稜地帯の豊かな自然、北欧で言い伝えられる森の妖精「トロール」の伝説など、いくつもの要素が組み合わさり、『となりのトトロ』は誕生したのです。
スタジオジブリが否定した「都市伝説」
観た人にさまざまなイメージを喚起させる力が、『となりのトトロ』にはあるようです。映画の終盤、サツキとメイに影がないことから、「サツキとメイは死んでいる」「トトロは死神」などの都市伝説が広まったことがあります。2007年5月にスタジオジブリが公式サイトで都市伝説の内容を否定したことがニュースになったほどです。
確かに『となりのトトロ』は、死の影を感じさせるところがあります。姉妹が引っ越した家は、結核患者が療養するのための物件だったという裏設定があったそうです。その人が亡くなったため、空き家となっていたのです。また、劇場公開時に同時上映されたのは、高畑勲監督の『火垂るの墓』(1988年)でした。『火垂るの墓』に登場する節子は、メイと同じ4歳でした。戦時中と戦後という時代の違いが、節子とメイの人生を大きく変えることになるのです。
サツキとメイが元気いっぱいに明るく過ごすことで、逆に死の影も明確に浮かび上がります。『となりのトトロ』は、初夏から盛夏にかけての物語となっています。夏は生と死を強く感じさせる季節でもあります。おそらく小学6年生のサツキは、もうしばらくするとトトロの姿が見えなくなるのではないでしょうか。そして、やがてはメイもトトロとお別れすることになるでしょう。
『となりのトトロ』は、純粋だった幼年期の終わりを弔うための映画なのかもしれません。子供たちは『となりのトトロ』から、大人が忘れてしまったいろんなものを感じ取っているようです。
(長野辰次)


