『となりのトトロ』は元あったタイトルが「縮んだ」もの? 今見ても混乱しちゃう公式情報とは
「トトロ」はとっても良い名前です。この不思議な響きはどこからやってきたのでしょうか。
メイが「トトロ」と聞き間違えた……というのは劇中の由来

映画『となりのトトロ』(原作・脚本・監督: 宮崎駿)の「トトロ」とは、まったくなんて良い名前なのでしょうか。あのモフモフとした丸っこいイメージと、どこか妖怪じみた不思議さも合わせもつ、素晴らしいネーミングです。この「名前」は、いったいどこからやってきたのでしょう。
劇中では、「メイ」が名付け親でした。トトロと初めて出会ったメイが、トトロの暴風のような咆哮を「トトロ(と名乗っている)」と聞き違えたことから、姉「サツキ」たちもそのように呼ぶようになっています。
とはいえ、これはあくまでも『トトロ』の世界内での由来です。実際のところ、宮崎駿監督はどのようにして、あの不思議な生き物のネーミングを決定したのでしょうか。
さっそく、ネットで調べてみると……「所沢にいるとなりのオバケ」を縮めたもの、という珍妙な情報が出てきます。言っている意味がひとつも分かりません。
本作は、「所沢」が舞台だったのでしょうか。仮に作中の場所が所沢だったとして、「所沢にいるとなりのオバケ」を縮めても、「トトロ」にはなりません。なるほど、きっと検索機能の「AIモード」が、適当な情報を拾ってきたのでしょう。
こういう時こそ、書籍の出番です。ジブリ関連で何か調べたいとき、まず間違いないのが文春文庫から発行されている『ジブリの教科書』シリーズです。
こちらの文庫シリーズは、作品ごとに監督、制作スタッフ、声優陣、あるいは著名人が当時のことを具体的に解説してくれている、まさに「教科書」となっています。このシリーズの第3弾『となりのトトロ』編を手に取ってみましょう。すると、トトロの名前の由来について、次にように書かれています。
「所沢にいるとなりのおばけ」がつまって生まれた言葉
困ったことに、全く同じことが書いてあるではありませんか。そうです。これが「公式」の回答なのでした。
別資料『宮﨑駿イメージボード全集 3 となりのトトロ』も見てみましょう。こちらでは、企画初期のトトロは「ミミンズク」という名前だったことが分かります。なるほど、トトロはミミズクに似ているので、こちらはスッと入ってきました。
しかし、最終的に決まったのは、「トトロ」です。たしかに『トトロ』の舞台のモデルとなった場所のひとつは、「所沢」だったと思われます。ただ、やはり「所沢にいるとなりのオバケ」を、いくら早口で言っても「トトロ」にはならないのです。
さらに『トトロの生まれたところ』という書籍のはじめには、プロデューサーの鈴木敏夫さんの文で
「宮さんという人は、元を正すと、東京のど真ん中で生まれ育ったいわゆる“街っ子”だ。それが結婚を機に、所沢に居を定める。(中略)そして、家の近くを散策するうちに思いついたのがあの『となりのトトロ』だった。それが証拠に、最初のタイトルは『所沢にいるとなりのおばけ』で、それが縮んで『となりのトトロ』になった」
と書かれていました。こちらも「縮んで」という表現が使われていますが、「所沢にいるとなりのおばけ」→「となりのトトロ」がすんなり入ってくる人は少ないでしょう。
ただ、もしかすると、この納得できなさにこそ、『トトロ』のテーマが潜んでいるのかもしれません。子供たちはこんな細かいことに、いちいち引っ掛からないでしょう。そのまま受け入れるに違いありません。
大人になり、何かにつけて合理的な理由を求めるようになってしまったからこそ、この「由来」がどうにも腹落ちしないのです。ああ、私たち(少なくとも筆者)はもう、トトロには会えないのだ……と、しみじみと実感せざるを得ません。
(片野)
