「異世界ブーム終了」のウワサは本当か? 飽和状態が続く理由と今後の行方
数か月前に、KADOKAWAが、「なろう・異世界系」への偏重が市場の飽和や収益性の低下を招いたとする決算内容を公表し、大きな話題となりました。このニュースを受け、ネット上では「そろそろ異世界ブームが終わりそう」といった声も見受けられますが、実際はどうなのでしょうか。
異世界ブームの「終焉」は近いのか?

『転生したらスライムだった件』や、『Re:ゼロから始める異世界生活』、『この素晴らしい世界に祝福を!』など、いわゆる「なろう系」と呼ばれるような作品群は、ここ10年ほどでアニメ、マンガ、ライトノベル市場を席巻してきました。しかし近年は異世界作品が毎クールのようにアニメ化され、なろう系の「乱立」「飽和状態」を指摘する声も少なくありません。
実際、こうした「なろう系偏重」を巡っては業界側も無関係ではいられないようです。数か月前に公開されたKADOKAWAの2026年3月期通期決算では、前年と比べて大幅減益となったことが報告され、その理由のひとつとして「『なろう・異世界系』など実績のあるジャンルへの偏重」が市場の飽和と収益性の低下を招いたと分析しています。
この発表はファンの間でも大きな話題となり、ネット上には「もしかして異世界ブームの終わりも近い?」「なろう系の時代がついに終わる!?」といった声まで見受けられました。では実際のところ、現在の「飽和状態」はいつまで続くのでしょうか。
現在のなろう系作品は、Web小説投稿サイトからスタートし、書籍化、コミカライズ、アニメ化へと展開するメディアミックスが定番となっています。こうした手法は多くの出版社やレーベルが同じような戦略を進めており、結果としてアニメ、マンガ、ライトノベルといった幅広い媒体で異世界作品があふれる状況が生まれました。
さらにその影響は専門レーベルの枠を越えて、一般誌にも広がっているようです。Web小説発の『シャングリラ・フロンティア ~クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす~』は「週刊少年マガジン」(講談社)でコミカライズされ、「週刊少年ジャンプ」(集英社)で連載中の『回撃のキナト』についても「なろう系の文脈を感じる」という声があがっています。
思えば、細田守監督のアニメーション映画『果てしなきスカーレット』も、「現代人が異世界へ足を踏み入れる」という点では、どこかなろう系的な空気を思わせる部分がありました。つまり現在は、単に作品数が増えているだけでなく、そのジャンルで共有される物語の構造やお約束まで広く浸透している状態なのです。
とはいえ、この飽和状態は、なろう系にとって必ずしも弱点ばかりではありません。むしろ、現在のコンテンツ市場においては強みとして機能している側面もあります。
そもそも、なろう系作品の特徴として「似たような展開」や「似たような設定」が多い点が挙げられますが、これは作品そのものが、ある種のSEO対策のような役割を果たしているからです。
例えばKADOKAWAの小説投稿サイト「カドコミ」で異世界ラブコメジャンルの作品を読むと、「この作品を読んだあなたにおすすめ」として類似ジャンルの作品が表示されます。そこで重要になるのが、「同じような作品をもっと読みたい」という読者の需要です。
ヒット作に近い設定や展開を持つ作品が次々と生み出されるのは、こうした需要に応えるためでもあります。読者にとっては次に読む作品を見つけやすく、出版社にとっても既存ファンへ作品を届けやすいというメリットがあるのでしょう。飽和しているように見えても、それは読者を別作品へ誘導しやすい環境が整っているということでもあるのです。
そうした状況を踏まえると、なろう系の飽和状態が近いうちに解消されるとは考えにくいかもしれません。さらに「頭を空っぽにして楽しめる娯楽」として一定の需要もあるため、これに代わる巨大ジャンルが短期間で誕生する可能性は決して高くはなさそうです。
今後、KADOKAWAをはじめとする出版社各社は、この終わらない飽和状態とどのように向き合っていくのでしょうか。異世界ブームの次なる展開に注目が集まります。
(ハララ書房)

