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『ガンダム』屈指の名エピソード「大西洋血に染めて」…カイの悲劇と成長が胸をうつ

その後のカイの生き方を決めた「悲劇」

カイ・シデンを主人公にした外伝マンガ作品、『機動戦士ガンダム デイアフタートゥモロー -カイ・シデンのメモリーより-」第1巻(KADOKAWA)
カイ・シデンを主人公にした外伝マンガ作品、『機動戦士ガンダム デイアフタートゥモロー -カイ・シデンのメモリーより-」第1巻(KADOKAWA)

 主人公・アムロの成長は、ホワイトベースから離れてひとりになったことがきっかけでした。それと同じように、カイもホワイトベースを離れることが成長のきっかけになっています。この「仲間と離れて、違う環境に身を置くことが成長のきっかけになる」という手法は、富野由悠季監督が使う手法で、後の作品でもよく見られます。

 ミハルとの出会いと別れ、それがカイを大きく成長させました。筆者が見て、カイが完全に変わったと感じた瞬間は、その次の29話でのセリフ。

「ミハル俺はもう悲しまないぜ お前みたいな子を増やさせないためにジオンを叩く!徹底的にな!」

 それまで面倒なことから逃げていたカイが、初めて戦争の意味に気づいた場面だと思います。それほどまでにミハルの死は、カイに大きな影響を与えたのです。

 また、ミハルの死は作品全体から見ても大きなものだと思います。なぜなら、ミハルのエピソードは作品のなかで唯一、民間人が死ぬ場面を丁寧に描いていたからです。

 1話で多くの民間人の死が描かれていますが、名前もドラマもない人びとでした。イセリナは仇討ちとはいえ戦場に向かい、銃を取ってしまいました。しかし、ミハルはただ生きたいと願っていたのに生きられなかった。その悲劇性は『機動戦士ガンダム』という作品では唯一無二だと思います。だから28話「大西洋、血に染めて」は心に残るエピソードになったのだと思います。

 物語最後にミハルの幻影と会話するカイ。当時はただの演出かと思っていましたが、これはニュータイプとしての感応だったのではないか? と筆者は思っています。そうだとすると、ミハルはいつもカイの側にいる。そう思えてくるのです。あくまでも筆者の思い込みですが。

 その後、ミハルの弟ジルと妹ミリーがどうなったか公式には描かれていませんが、筆者はカイがそのままにはしていないと思っています。せめてふたりには、ミハルの分まで幸せになってほしいと思います。「大西洋、血に染めて」を見るたび、創作物であるにもかかわらず、筆者は心からそう思うのです。

(加々美利治)

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