アニメの声優選びにまつわる、ちょっと危険でドライな話【この業界の片隅で】
アニメ業界の片隅で生きる著者・おふとん犬が、業界の片隅で拾ったさまざまな話題を取り上げて解説します。今回は、アニメのキャスティング=「声優選び」にまつわるちょっと危ない話。かつてゴシップ媒体やまとめサイトなどで取り上げられた噂は、どこまでが本当で、裏にはどんな事情があるのでしょうか。
「お金を出して役を買う」の半分は事実?

いつだったか、とあるゴシップ媒体に、「声優業界に進出した大手芸能事務所が、お金を出してアニメ作品の役を買っている」といった旨の記事が掲載され、いわゆるまとめサイトを通して拡散されたことがありました。それに対する反応はおおむね「金の力で汚いことしやがって」「これぞ声優業界の暗部」というものだったように記憶しています。
結論から言うと、この噂の半分は本当ですが半分は大きな誤解です。
アニメを作るには高額の資金が必要となるため、通常は製作委員会が組まれます。複数の会社が資金を持ち寄り、それぞれの会社が出資と引き換えに窓口権を手に入れるというものです。窓口権の考え方は、ざっくり説明すると次のようなものです。
例えば、A社というグッズ制作会社が製作委員会に出資して、「国内版権窓口」を独占的に手に入れたとします。すると、その作品のグッズを日本国内で売る(もしくは販売を統括する)権利はA社だけのものになり、A社は日本国内でのグッズ売上から窓口手数料を天引きすることができます。出資した作品がヒットすればするほど、出資比率に応じた作品全体の売上からの配分金に加え、グッズ売上による窓口手数料が発生するわけですから、A社の利益はより大きくなるという仕組みです。
難しすぎるでしょうか? であれば、もっとざっくりと、「お金を出す会社は作品の権利の一部を持てる」と考えてください。
この「お金を出す会社」に、声優の事務所や音楽レーベルが入ることがあります。彼らは出資と引き換えに、その作品に「自社の声優を出演させる権利」や「主題歌として自社の音楽を流す権利」を手に入れることになります。そうして指名される声優やアーティストは、重大な犯罪に手を染めた前歴があるといった余程のことがない限り、製作委員会に拒否されることはありません。
「お金を出して役を買っている」の真相は、要するにこれでしょう。形としては確かに買っていることになるかもしれませんが、ゴシップ媒体やまとめサイトで噂されるような裏金的なものでは決してなく、極めてドライなビジネスです。契約書を確認すれば、厳密な条件や金額がちゃんと記載されています。
では、そんなふうに「役を買ってもらった」声優やアーティストは、オーディションを勝ち抜いた人と比較して「楽をしている」「ズルをしている」と受け取って良いものでしょうか? そんなことはありません。