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劇場オリジナルアニメは「厳しい」のに、次々登場するのはナゼ? 背景にある「夢と狂気」

新海誠監督の最新作『すずめの戸締まり』が、11月11日(金)より全国ロードショーとなります。大ヒットが期待される作品ですが、劇場オリジナルアニメは、そもそもリスクが極めて高いもの。それでも作られ続けるのはなぜなのでしょうか。アニメ業界の片隅で生きる筆者・おふとん犬が解説します。

「あの人が作った作品」を夢見るクリエイター

2022年11月公開予定、新海誠監督の最新作『すずめの戸締まり』 (C)2022「すずめの戸締まり」製作委員会
2022年11月公開予定、新海誠監督の最新作『すずめの戸締まり』 (C)2022「すずめの戸締まり」製作委員会

 アニメに限らず「クリエイター」であれば、自分自身が生み出したキャラクターや物語を歴史に残したいと、一度は夢見るものです。クリエイターと職人、両者の価値や存在意義にもちろん差はありませんが、栄光を求める欲求や野心については、明らかな違いがあります。

 子供のように純粋な一途さで仕事に取り組み、求めもしない名誉を得てむしろ戸惑ってしまう……そういったおとぎ話めいたエピソードは、クリエイターよりむしろ職人や学者のものなのです。

 職人であること以上に自意識の置き場を求めるクリエイターであれば、自らの野心と仕事は切っても切り離せず、良くも悪くも生々しい人間性の荒波に揉まれながら物づくりをするもの。これを最も強く意識し、半ば戯画的に演じ続けているのが、『機動戦士ガンダム』の富野由悠季監督でしょう。

 最新作『機動戦士ガンダム 水星の魔女』も話題を呼ぶガンダムシリーズを生み出しただけでも、歴史に残る仕事をしたと言えます。しかし、一度もそれに安住することなく、自分自身がどの立ち位置にいるべきか、どんなもの作るべきか、常に考え続けている思索的な人物のように思います。

 富野由悠季監督ほどでなくとも、自身がどの立ち位置にいるべきか、どんなもの作るべきか、野心をもって考え続けるアニメ作家であれば、劇場オリジナルアニメを志すのは自然なことです。クリエイターとしてのポジションをはっきりと与えてくれますし、自分自身の創造性だけを作るべきものとして掘り下げることを許され、歴史に名が刻まれるほどの栄光が得られる可能性さえある……そんなものは今のところ、劇場オリジナルアニメしか見当たらないからです。

 不朽の名作『ドラえもん のび太の海底鬼岩城』などを世に送り出した芝山努監督は、日本アニメ史に残る名匠中の名匠です。それでも、宮崎駿監督ほど一般に名前が知れわたっているとは言えません。

 映画『ドラえもん』は、あくまで藤子・F・不二雄先生のマンガのアニメ化ととらえられており、「宮崎アニメ」のように「芝山アニメ」とは認識されていません。『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』は、日本アニメ映画史上最大のヒット作ですが、監督の名前として即座に外崎春雄さんの名前を挙げられる人は、むしろ少ないでしょう。作品の素晴らしさや監督としての偉大さには何ら関係なく、ただ、そういうものなのです。

「あの作品を作った人」と、「あの人が作った作品」とでは、語られ方に大きな違いがあります。この違いの大きさこそ、劇場オリジナルアニメの難しさでしょう。

【画像】高い評価で記憶に残った、劇場オリジナルアニメ作品たち(5枚)

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