『耳をすませば』令和だと雫と聖司は出会えない? 30年前は“当たり前”だった「消えた常識」の数々
スタジオジブリの名作『耳をすませば』は、中学生たちが織りなす甘酸っぱい青春ドラマである一方、古き良き「平成初期の暮らし」が垣間見える作品でもあります。コンビニのレジ袋、二層式洗濯機、図書館の記名式カードなど、何気ない日常のひとコマにも、令和とは異なる当時の空気が反映されていました。
雫と天沢聖司は「この時代」だから出会えた?

2026年5月1日(金)の「金曜ロードショー」で、スタジオジブリの名作『耳をすませば』が放送されます。これまで何度も地上波で放送されてきた本作ですが、令和になったいまだからこそ見えてくるものもあるでしょう。物語の舞台となるのは、約30年前の1990年代半ば。作中には現在とは大きく異なる日常の風景が随所に描かれており、どこか懐かしい気持ちにさせてくれるのです。
例えば当時の「当たり前」が垣間見える場面は、物語の冒頭から描かれていました。主人公の「月島雫(CV:本名陽子)」がコンビニから帰宅し、母親が「またビニール袋? 牛乳1本なのに」と声をかけるシーンです。これに雫は「だってくれるんだもの」と返すわけですが、当時はまだレジ袋が無料でもらえる時代でした。
レジ袋の有料化が始まったのは、2020年7月1日のことです。それまでは映画のように何の断りもなく袋を受け取れる光景が当たり前でしたが、いまとなってはどこか時代を感じさせるシーンに映ります。
また、雫が暮らす団地の外灯に虫が群がる様子も印象的です。これは白熱灯が主流だった当時ならではの光景で、現在はLED照明の普及によってあまり見られなくなりました。
朝、空に浮かぶ飛行船を見て「今日はいいことありそう!」と雫がつぶやくシーンも、若い世代にとっては不思議な光景に映るかもしれません。高度経済成長期に空飛ぶ広告として活躍した飛行船ですが、条例の変化やビルの高層化などの影響で需要は激減し、国内で目にする機会はほとんどなくなりました。実物を見たことがある人も少ないのではないでしょうか?
そして何より、雫と「天沢聖司(CV:高橋一生)」が出会うきっかけとなった「本の貸し出しカード」も、いまや絶滅寸前のアイテムといえます。現在も図書館カード自体は存在しますが、本作に登場するのは記名式のカードです。
かつては本を借りる際、背表紙裏のポケットに入ったカードへ名前と日付を書き込むのが一般的でした。そのため雫はカードを通して「天沢聖司」の存在に気付くことができたのですが、現在の貸し出し記録はコンピューターやバーコードで管理されるのが主流です。個人情報保護の観点からもこうした方式への移行が進み、近年では手書きの貸し出しカードはほとんど見られなくなっています。
ちなみに劇中でも、図書館に勤める雫の父親が「我が図書館もついにバーコード化するんだよ」と語り、管理方式の変化を示唆していました。もし雫たちの生まれる時代がもう少し違っていたら、ふたりが出会うこともなかったのかもしれません。
そのほか作中には、文書作成に使う「ワープロ」や、洗濯槽と脱水槽が独立した「二層式洗濯機」、東京都内にある「有人改札」など、当時は当たり前だった設備や機器が随所に描かれています。
また物語全体を通して「携帯電話」がほとんど登場しない点も、令和の若い世代には新鮮に映るでしょう。雫が電車に乗り込むシーンでも、車内で携帯電話を操作している人はひとりもおらず、新聞を読んだり車窓を眺めたりする乗客の姿が目立ちます。
実は携帯電話が急速に普及するのはもう少し後のことで、雫たち学生が携帯を持っていないのも当たり前でした。友人との連絡も、手紙や自宅の固定電話が中心だった時代です。
当時はごく当たり前だった光景も、いま見返すと印象は大きく変わります。令和の時代に触れる『耳をすませば』の世界は、観る人によって懐かしくもあり、珍しくもあり、不思議に映るなど、興味深い発見が尽きません。視聴の際は、ぜひこうした細かな描写にも目を向けてみてはいかがでしょうか?
(ハララ書房)




