『ナウシカ』誰もやりたがらなかった「激ムズ」シーンを描いた驚異の新人とは 宮崎駿「ものすごく誠実な男」
『風の谷のナウシカ』で、誰もがお手上げだったシーンをひとりで担当した男がいます。彼はこの時、動画は未経験の新人だったのです。
『ナウシカ』伝説のシーンが生まれた理由は「人手不足」?

映画『風の谷のナウシカ』(原作、脚本、監督:宮崎駿)の数ある名シーンのなかでも、とりわけ印象深いのが、ドロドロに腐った「巨神兵」が迫り来る「王蟲」の群れに、強烈な閃光を浴びせながら崩れ落ちるシーンではないでしょうか。いまもなおアニメ映画史に燦然と輝く、クライマックスです。
ところが、制作段階においては、このシーンがとにかく厄介者でした。ドロドロに腐った巨神兵を動かすという複雑なシーンの「原画」を、誰も担当したくなかったのです。『ナウシカ』の制作会社でスタジオジブリの前身であるトップクラフトは当時、逼迫するスケジュールに対して、圧倒的に人手が不足していました。
困り果てたところに、「救世主」が出現します。宮崎駿監督の大ファンだという細身の青年が、『ナウシカ』の現場に参加するためにトップクラフトにやってきたのです。
宮崎監督はさっそくこの青年を採用し、いきなり、例の巨神兵のシーンをやってみないかと打診します。この時、青年はアニメの現場はほぼほぼ未経験でした。それでも宮崎監督は彼に一番難しいシーンの原画を、一任してしまいます。
その青年こそ、今や巨匠となった庵野秀明さんでした。この出来事は後年、ふたりの天才性を象徴するエピソードとしてファンの間でも語り継がれることになるのですが、実際のところ庵野氏の登用は、大抜擢というより人手不足ゆえの結果という側面が強かったのです。
もちろん、巨神兵のデザインや破壊光線の描写は、新人とは思えぬ圧巻の仕上がりでした。一方で庵野さんは当時、人物が大の苦手で、宮崎監督にこっぴどく叱られたといいます。あまりにも上手く描けないため、業を煮やした宮崎監督は「あとはオレがやるから!」と人物の絵を描いてしまったのでした。
ふたりの巨匠の若かりし師弟関係のエピソードとして、これ以上素敵なものはないでしょう。そして2013年、庵野さんは宮崎監督の『風立ちぬ』で、主演声優を務めました。
こちらはもちろん「人手不足」ではなく、「大抜擢」です。声優のキャスティング会議で宮崎監督は、庵野さんのことをこう評していました。
「ものすごく誠実な男です。嘘つかない男です」
参考書籍:『ジブリの教科書1 風の谷のナウシカ』
(片野)

