ダメ主人公マンガ3選 「人生どうでもいいわ」ストレス社会、捨て鉢な心に寄り添う
ストレス社会に嫌気がさし「人生どうでもいい!」と全てを投げ出したくなる瞬間、誰でもありますよね。そんな捨て鉢な気持ちを肯定も否定もせず、そっと寄り添ってくれる“ダメ主人公”マンガをご紹介します。
本当に「失踪」してみたら…鬼才が描く明るく楽しい?ホームレス実録マンガ

何かとストレスの多い現代社会。職場や学校での人間関係にすっかり神経をすり減らし、気付づけば「なんかもう人生どうでもいいわ!」と、あらゆるしがらみを断ち切って逃げ出したくなる……そんな衝動に駆られた経験をお持ちの人も多いのではないでしょうか。この記事では、厭世観に満ちた心を否定することも肯定することもせずに、ただそっと寄り添ってくれる、ダメ主人公マンガをご紹介します。捨て鉢な気分おもむくまま、何か良からぬ方向へ踏み込んでしまう前にページをめくっていただければと思います。
●全てを投げ出すその前に……吾妻ひでお『失踪日記』

「人生どうでもいい!」マンガの筆頭としてご紹介したいのは異能のカリスマ・吾妻ひでお先生による珠玉のエッセイマンガ『失踪日記』です。
タイトルの通り実際に失踪した作者自身の目線で失踪生活が描かれている本作。その失踪ぶりもまた本格的。SF・不条理ギャグマンガのジャンルで確固たる地位を築いていたはずの作者が、全てキャリア、交友関係を捨て去り、ひとり死に場所を求め山中へと赴き、そのままホームレス生活を開始します。
何とも陰々滅々とした話のように思えますが作品の雰囲気は真逆。作者が努めて明るいタッチに仕上げているので、抵抗なく「失踪」生活を読み進めていくことができます。山中生活で得たライフハックはまるで無人島漂流記を読んでいるかのよう。ボロシートで雨風をしのぎ、“野生”のキャベツを腰の下に敷いて漬物を作ったり、空き缶を鍋にうどんを茹でたり……うっかり「楽しそう」と感じてしまう場面もしばしば。読了後に残るのは「いつでも失踪できるなら、もう少し頑張ってみようか」というポジティブな感慨です。これこそ吾妻ひでお先生が人生を通じて読者に与えてくれた優しい勇気に他なりません。
●酒に溺れる前に…まんしゅうきつこ『アル中ワンダーランド』
「人生どうでもいい!」となったとき最も手軽な逃避手段はお酒かもしれません。次に紹介するのは実際に酒におぼれ、アルコール依存症になった経験をつづった話題作『アル中ワンダーランド』です。作者のまんしゅうきつこ先生(現:まんきつ)は周囲からの重圧に負けて大量飲酒を開始してしまったのですが、泥酔状態でイベントに出演し片乳を露出したり、実家にある料理酒まで飲むようになったり……赤裸々に描かれる作者の“ダメっぷり”はもはや潔さすら感じますし、常に「何かやらかしそう」という殺伐とした緊張感が漂っているのもまた魅力です。
もちろんこの作品は大量飲酒をオススメするものではありませんし、後半にはアルコール依存症から社会復帰していく過程も描かれます。一方で「お酒におぼれることはよくない!」というお説教くささもゼロ。酒におぼれたくなる気持ちには寄り添ってくれる、そんな不思議な優しさに満ちています。作中に登場する「私はお酒を飲まないと人と明るくしゃべれないの!」という魂の叫びには共感してしまう人も多いのではないでしょうか。ストロング缶を片手に楽しんでみるのもまた一興です。
●どんなに孤独で寂しくても…人間として生きる! 福本伸行『最強伝説 黒沢』

最後にご紹介するのはエッセイマンガではなくギャンブルマンガの巨匠・福本伸行先生が中年の悲哀に焦点を絞った異色作『最強伝説 黒沢』。主人公・黒沢は建設現場で働く44歳の独身男。恋人なし、お金なし、人望なし。そんな黒沢が人生を変えようと奮起するのですが、やることなすこと全てが裏目に出て、ますます孤立していく……「人生どうでもいい!」と割り切ってしまえば傷つくこともないのに「同僚に好かれたい」「女性にモテたい」こうした煩悩に泥臭く向き合い続ける黒沢の姿は、読者の心を揺さぶり続けます。ニヒルな気分も吹っ飛び、もう一度前を向こうと背中を押してくれる傑作です。
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ここまでちょっとダメな主人公マンガ3作品ご紹介しました。精神が疲弊している時、前向きなアドバイスはかえって虚しく響くもの。そんな時こうしたマンガは単なるエンタメを超えて親友のような存在になってくれます。閉塞感漂うこのご時世、お手元に置いてみてはいかがでしょうか。
(片野)