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劇場版『鬼滅の刃』400億突破でも苦境続く映画界。「悪夢」断ち切るヒントはアニメに?

日本映画界から「多様性」奪われるおそれ

2021年5月20日に閉館することを告げる、「アップリンク渋谷」公式サイト
2021年5月20日に閉館することを告げる、「アップリンク渋谷」公式サイト

 世界各国でも「鬼滅の刃」シリーズが好評で、日本のアニメーションの質の高さが認められているのは喜ばしい限りです。しかし、『無限列車』が国内興収400億円を弾き出した一方、日本映画界全体の興収は2019年の2611.8億円から、2020年は1432億円と大幅に落ち込んでいます。

 東京都をはじめ、多くの都道府県に「緊急事態宣言」が出され、舞台あいさつなどの宣伝活動が十分にできずに埋もれてしまった映画は数知れません。クラスターの発生は一度も報告されていないにもかかわらず、映画館は行政から営業自粛や営業時間の短縮を要請され、苦しい経営状態となっています。特に経営規模の小さなミニシアターの多くは、赤字に追い詰められています。

 チェコアニメを定期的に上映していたアップリンク渋谷は5月20日に、ロシアのアニメ作品なども手掛けていたユジク阿佐ヶ谷は2020年12月9日に閉館しています。『君の名は。』(2016年)の新海誠監督や『この世界の片隅に』(2016年)の片渕須直監督といったヒットメーカーも、初期作品はミニシアターで上映されていました。ミニシアターは新しい才能を育む、大切な場所です。

 アニメ、特撮、邦画、洋画など、多彩なジャンルの作品が楽しめるのが日本映画界の特徴です。ミニシアターや町の映画館などが消滅すると、日本映画界から多様性が奪われることにもなりかねません。

どうすれば「悪夢」を断ち切れるか?

 日本のアニメーションにはまだまだ大ヒットする余地があることが、『無限列車』の成功によって証明されたと言えるでしょう。日本映画界全体が、この機会にアニメ界の長所を取り入れていけばどうかと思います。

 アニメーション作品は、基本的にオーディションによって出演声優を決めています。一方、日本の実写映画は俳優の人気度、プロダクションの力関係によって、オーディションなしで配役が決まることがもっぱらです。アニメ界のようにオーディションが一般化すれば、新鮮味のあるキャストの起用につながり、作品や映画界も活性化していくのではないでしょうか。

 また、実写映画では舞台あいさつに登壇したキャストへのギャラは、支払われないことがほとんどです。出演料のなかに宣伝協力費も含まれているという考えになっています。この点もアニメ界を見習って、舞台あいさつに登壇したキャストやスタッフにもギャラを用意するようになれば、舞台あいさつはより充実したものになり、配信などで話題になることが考えられます。

 もちろん日本のアニメ界も、多くの若手アニメーターが務める「動画」はギャラが安いことが知られています。いくら才能があっても、安すぎるギャラは意欲を萎えさせます。作品がヒットし、利潤を生み出すことで、出資者だけでなく、裏方として苦労したスタッフたちにも還元されるようになれば、スタッフのモチベーションも高まり、作品の質もよりアップしていくのではないでしょうか。

「悪夢を断ち斬れ」「弱き人を助けるのは、強く生まれた者の責務」など、『無限列車』はいくつものパワーワードを生み出しました。『無限列車』の記録的大ヒットがきっかけで、日本のエンタメ界がいい方向に向かっていけば、どんなに素晴らしいことでしょうか。

(長野辰次)

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