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『カムイ伝』の白土三平氏と岡本鉄二氏、過酷な身分社会を生きる人びとを描き切った

ドラマ・リアリティ・イデオロギーの3要素をマンガで体現

マンガ『カムイ外伝』20巻(小学館)
マンガ『カムイ外伝』20巻(小学館)

 当時、数多く制作されたマンガのなかで、なぜ白土作品は特別だったのか。手塚治虫先生は、「白土作品の登場によりマンガに重厚なドラマ・リアリティ・イデオロギーが必要になった」と語られています。

 それまでの時代劇マンガではあいまいだった、身分による軋轢(あつれき)や、身分を超えようとする人びとのあがき苦しむ姿。カムイの使う変移抜刀霞斬り、飯綱落とし、十文字霞崩しをはじめとする、鍛え上げた人間なら条件次第で実現できるかもしれない技の数々。確かに手塚先生のおっしゃる通り、白土先生の作品には上記の三要素が濃厚に感じられます。

 そしてこの3要素を表現するために大きな力となったのが、岡本先生です。1950年代から60年代前半にかけて貸本漫画家として『忍者武芸長』『サスケ』『忍法秘話』など多数の作品を世に送り出していた白土先生でしたが、大作『カムイ伝』を構想したものの、連載可能な場はこの時期存在していませんでした。

 そこで出版社・青林堂創業者の長井勝一氏と手を組み、日本初の青年向けマンガ雑誌『ガロ』を創刊、同時に赤目プロダクションを創設し量産体制を確立、第4号より『カムイ伝』連載を開始しました。

『カムイ伝』の前半は当時白土先生のアシスタントであり、後に『子連れ狼』で大ヒットを飛ばす時代劇漫画家の小島剛夕(こじま ごうせき)先生がペン入れを行っていましたが、途中で降板し、岡本先生が作画を担当するようになります。

 なお、おおよそ前半3分の2が小島先生の担当分であり、岡本先生は後半の3分の1を担当しているようです。その後の岡本先生は文字通り兄の右腕となり、描かれている人物がまるで本当に生きているかのような重厚な絵で、作品に命を吹き込み続けました。

 人の呼吸と土の臭い、川のせせらぎ、潮の香り。ささやかな人生の楽しみ、怒り、笑い、悲しみ、そして希望。白土先生と岡本先生はその文字と絵で、私たちが知り得ない時代の、出会えない人びとの営みを教えてくださいました。謹んでご冥福をお祈り申し上げるとともに、素晴らしい作品を世に出していただいたことに深く感謝申し上げます。

(早川清一朗)

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