『竜とそばかすの姫』は意見の異なる人と一緒に観ることで完成する? 「金ロー」で初放映
ネット世界では誹謗中傷に傷つくことも

細田守監督は、これまでにも『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム』(2000年)、『サマーウォーズ』(2009年)と、ネット社会をテーマにしたファンタジー作品を手がけてきました。現実では不可能な夢も、ネット世界なら叶えることができるのです。すずも田舎町に暮らしながら、世界的な歌姫「Belle」として賞賛されるようになります。まさに夢のような仮想空間です。
しかし、実名が明かされず、素顔も分からないネットの世界は、誹謗中傷も多く、無責任なフェイクニュースも出回ります。ファンの声援に喜ぶだけでなく、厳しい意見にも向き合うタフさ、表現者としての芯の強さも必要となってきます。
アクセス数が増え、「いいね」の数が多ければ、それだけでうれしくなりがちですが、数字以上にもっと大事なものがあることに、すず/Belleは気づくのでした。
見逃されがちな小さな声の持ち主に、きちんと手を差し伸べることができるのか。ネット上のキャラクターたちは、現実世界では生きた生身の人間であることを忘れていないか。ネット世界の利便性や華やかさだけでなく、人を容易に傷つけてしまうネット世界のマイナス面も、本作では描かれています。
賛否両論となった、すずがクライマックスで見せた行動
ヒロちゃんや幼なじみのしのぶくんたちの協力もあって、すずは「竜」の正体だけでなく、彼が傷ついている理由も知ることになります。ネット世界では暴れん坊で、自警団から排除の対象になっていた「竜」は、現実世界ではとても繊細で、しかも命に関わる窮地に立たされていたのです。
すずがクライマックスで見せる行動に対して、一部では疑問を投げかける声もありました。ひとりの女子高生が、事件性の高い問題に立ち向かっても、簡単には解決できるものではないからです。すず自身がもっと危険な目に遭った可能性もあります。
2022年7月1日に放送された『時をかける少女』(2006年)の真琴をはじめ、細田作品の主人公たちは失敗を重ねます。常に正しい行動ができる優等生キャラクターではありません。視聴者が放っておけなくなる、未完成のキャラクターばかりです。
特に本作のすずは、これまでの生々しさがあった細田作品の主人公たちに比べると、おとなしい性格もあって存在が希薄に感じられます。思うに、すずというキャラクターは固有の女子高生というよりは、視聴者それぞれのポジティブになれずにいる心の気弱な一面を象徴した存在ではないでしょうか。誰の心のなかにも、繊細なひとりの少女がいるのです。そんなナイーブな存在が、勇気を振り絞って現実世界へと一歩踏み出していくことで、本当の意味での変身を果たすことになります。
もちろん、これは筆者個人の感想です。視聴者がそれぞれ「自分はこう思う」「自分ならこうするのに」と考えることで、『竜とそばかすの姫』は物語として完成するように感じます。
いろんな世代、いろんな地域の人たちが、同時間に一緒に視聴する「金ロー」は、家族みんなで楽しめるように作られた細田作品とぴったりマッチしています。放送中には、いろんな人たちのさまざまな声や意見がネット上で飛び交うことでしょう。
応援の声だけでなく、建設的な批評も交えることで、視聴者もいろんな視点や考え方があることを知ることになります。視聴者も成長していくことで、細田作品もまた、進化を遂げていくのではないでしょうか。
(長野辰次)



