障害理解が急速に進む「ゲーム」業界…健常者が誤解しがちな「アクセシビリティ」の本質とは 当事者・企業・識者に訊く
障害のハードルを取り除く「Access コントローラー」

「障害が理由でゲームを遊べない人がいるなら、そのハードルは取り除かなければなりません」
そう力強く語るのは、SIEの柳瀬和大さん。
障害のあるゲームファンが快適かつ長時間プレイできるように開発されたPS5向けコントローラーキット「Access コントローラー」のハードウェア面の企画を指揮しました。

Access コントローラーは、多様なニーズに合わせてカスタマイズを行えるように徹底して開発したといいます。またボタンの形状も5種類用意されており、標準的な「ボタンを真下に押す」タイプだけではなく、せり上がったボタンの端に指をかけて「手前に引く/奥に押す」ことで操作できるタイプも用意されています。
さらにコントローラーを持てない人も楽しめるよう平らな机に設置して使用できるほか、一般的な三脚などにマウントしての使用にも対応しています。

制作当初は、SIE社内にアクセシビリティに関するノウハウを集める必要があったため、作業はコンサルタントを通じて専門家や障害のある方に入念なヒアリングを行うところからスタート。トライ&エラーを繰り返し、さらに試作機を使ったユーザーテストも念入りに行うことで、発売までにじっくり約5年の月日をかけました。
アクセシビリティには“理想形”は存在しない

「ゲームは、現実にはない体験を味わえるエンターテイメント。だからこそ、アクセシビリティとインクルーシビティ(誰も排除しない包括性)に取り組まなければなりません」
そう言葉を続けたのは、SIEの山本徹さんです。Access コントローラーのソフトウェア面をはじめとして、PlayStationのアクセシビリティ対応も含めてさまざまな商品を手がけています
クリエイターが「一番使いやすくて、楽しめる」と思う遊びを形にする一般的なゲーム機と違い、アクセシビリティの追求には「唯一の正解」という概念がありません。障害の性質や程度は千差万別で、腕だけを見ても左右どちらかのみが不自由な人がいれば、両腕とも動かせるが力を入れられないという人もいます。

つまり、あらかじめ決まった形や動作をする製品で、すべてを満足させることは現実的には不可能だといえます。Access コントローラーは開発者が最適解だと思うデザインを押し付けるのではなく、ユーザーが自分に合った最適な設定を行えるものでなければならない――山本さんは、このことに気がついたのがブレイクスルーの瞬間だったと振り返ります。

障害の有無にかかわらず、見落としやすいハードルとして「商品やサービスの入り口」が挙げられます。
たとえば、筆者が知る事例として、視覚障害のある方がとある格闘ゲームをプレイした際に、メインである格闘パートでは問題なくプレイできるのに、そこに行き着くまでのメニュー画面で音声解説がなく、「今画面で選択されているのがどのモード/キャラクター/ステージなのか情報が得られなかった」という話を聞きました。
Access コントローラーは、そういった視点も忘れることなく開発されています。アクセシビリティの精神は製品そのものだけでなく梱包にも生かされており、封をしているテープの端にあるリングに指をかけて軽く引っ張るだけで、簡単に開封できます。

ボタンなどの各種部品も袋に詰めずそのまま梱包。箱を移送・配送しても部品が散らばってしまわないよう、ボックスの形状に試行錯誤を重ねました。ソフトウェアにもその精神は行き届いており、コントローラーをPS5に接続するだけで、自分に合った設定をするための初回セットアップ画面が起動するようになっています。

発売に向けてユーザーテストを繰り返していたある日、柳瀬さんや山本さんら企画スタッフの下に一通の手紙が届きました。差出人はテスターとしてAccess コントローラーに触れていたとある少年で、そこには、障害のある自分がゲームを遊べたことへのお礼が直筆で書かれていました。
「手紙を読んだ時は、私たちの商品が実際に誰かの助けになったことが伝わってきて涙ぐんでしまいました(柳瀬さん)」




























