障害理解が急速に進む「ゲーム」業界…健常者が誤解しがちな「アクセシビリティ」の本質とは 当事者・企業・識者に訊く
SDGsの目標のひとつでもある「アクセシビリティ」ですが、エンターテイメント分野においては「ゲーム」が近年知られざる進化を遂げています。ゲームのアクセシビリティの“今”を、当事者・企業・識者の取材を通じて伝えます。
知られざる「ゲームのアクセシビリティ」最前線

2023年8月、アメリカで開催された格闘ゲームの世界的大会「EVO 2023」における『ストリートファイター6』の予選で、全盲の外国人選手が健常者を相手に大金星を上げました。

勝利は選手自身の不断の努力のたまものですが、それだけではありません。『ストリートファイター6』に、障害と戦い続ける人の努力に応えるだけの“下地”があったからこそです。そうした下地――障害の有無にかかわらず、誰もが等しく楽しんだり日々の生活を送ったりできるようにする取り組みは、「アクセシビリティ」と呼ばれています。
SDGsの目標のひとつでもある「アクセシビリティ」ですが、エンターテイメント分野においては「ゲーム」が近年知られざる進化を遂げていることをご存知でしょうか。
この記事では、ゲームにおけるアクセシビリティの“今”を、「障害がある身でゲームライフを謳歌するeスポーツプレイヤー」、「アクセシビリティ向上に取り組む家庭用ゲーム機メーカー」、「障害への正しい認識を広めんとするキュレーター」という3つの視点から探ります。
[取材・文=蚩尤/編集=沖本茂義]
誰もがコントローラーを持てるとはかぎらない

「2006年にWiiが発売された時、僕はもうゲームで遊べないのかもしれないと思いました」
少し寂しそうな笑顔を浮かべながら当時をそう振り返ったのは、岩手県在住のeスポーツプレイヤー、畠山駿也さん。
筋肉が徐々に衰えていく国指定難病である筋ジストロフィーと闘いながら在宅で働いており、プライベートでは自作の「顎コントローラー」で格闘ゲームに熱意を注ぐゲーマーという顔も持っています。

小学校から車いす生活だった畠山さんにとって、誰かと対戦できるゲームは自身と友人をつなぐ絆の象徴。そんな時代に出会ったのが、格闘ゲームでした。
「僕にとっての10代は、日常生活でできることが減っていく喪失の時期。そんななかで、努力すれば勝てる対戦ゲーム、格闘ゲームと出会い夢中になりました」
家庭用ゲーム機は、基本的にコントローラーを手に持って遊ぶことが想定された作りです。しかし、障害者が同じようにできるとは限りません。

畠山さんは病状が少しずつ進行し、やがてコントローラーを持つのが困難に。そんな時に畠山さんを支えたのが、友人に勧められたPCのオンラインゲームでした。
「当時の家庭用ゲーム機は、コントローラーを持てないとなかなか思うように遊べませんでした。その点、PCゲームはデスクに置かれたキーボードとマウスで操作できるほか、外部入力装置をつなぐのもゲーム機より簡単です。僕には、それが救いとなりました」
アクセシビリティは「同じフィールドに上がる」ためのもの

学校を卒業してから、在宅のWebデザイナーとして働きはじめた畠山さん。しかし、コロナ禍が到来すると外出機会が激減。先の見えない日々を送りました。
「こんな時だからこそ、一番好きなことをやるべきだ」との思いに至った畠山さんは、Webプラットフォーム「note」を通して自分がどのような工夫をしてゲームを楽しんでいるかを発信。大きな反響が寄せられました。
さらに「手をうまく動かせないなら顎で操作すればいい」という発想から、多くの人の協力を得て自作の「顎コントローラー」を制作。畠山さんは大きな達成感とともに「欲しいものは自分で手に入れなければならない」という実感に包まれました。

「足かせが外れたかのような清々しい気分で、自分の生きる道が定まった瞬間でした」
今は在宅勤務で株式会社ePARAに勤めている畠山さんは、eスポーツを通じて障害者が自分らしく社会参加できる支援を行っています。

そのかたわらで、2023年6月2日に発売された格闘ゲーム『ストリートファイター6』の開発にも社をあげて協力しました。

ゲームにおけるアクセシビリティはどうあるべきか? 畠山さんに尋ねると、未来を見据えつつこう答えました。
「ゲームにおけるアクセシビリティは、“イージーモード(を用意すること)”ではありません。“誰もが同じフィールドに上がるためのもの”であるべきです。そのことを伝えるのが難しいんですけどね」