マグミクス | manga * anime * game

障害理解が急速に進む「ゲーム」業界…健常者が誤解しがちな「アクセシビリティ」の本質とは 当事者・企業・識者に訊く

アクセシビリティ革命をもたらした『The Last of Us Part II』

キュレーター/プロデューサーの田中みゆきさん
キュレーター/プロデューサーの田中みゆきさん

「あらゆるエンターテイメント分野において、ゲームのアクセシビリティは最も進んでいます」

 そう語るのは、「障害は世界を捉え直す視点である」というテーマでさまざまな表現の見方や捉え方を発信するキュレーター/プロデューサーの田中みゆきさん。目の見えない人と見える人がともに音からつくり、音で遊ぶゲームをつくるプロジェクト「オーディオゲームセンター」にも携わっているそうで、笑顔をまじえながらゲームのことを話す言葉にはよどみがありません。

 近年目覚ましい進化を遂げるゲームのアクセシビリティですが、 “アクセシビリティのゲームチェンジャー”と言えるほど革新的なゲームソフトが、アメリカのゲーム会社ノーティードッグが開発し、2020年にSIEが発売したPS4ソフト『The Last of Us Part II』だといいます。

2020年にPS4ソフトとして発売された『The Last of Us Part II』
2020年にPS4ソフトとして発売された『The Last of Us Part II』

 同作におけるアクセシビリティ項目はテキストの読み上げ、キャラクターの移動アシスト、近くにあるアイテムの自動取得など60種類以上におよび、発売当時のインターネットでは、障害者の喜びの声やクリア報告が見られました。

 障害のある多くのプレイヤーに喜びを与えた『The Last of Us Part II』ですが、惜しい点がひとつあったといいます。それは「ムービーシーン」に、テレビ番組や映画でいうところの「オーディオディスクリプション (視覚に障害のある人に視覚情報を補助するナレーション)」にあたる機能がなかったこと。視覚障害者にとって、セリフのやり取りが少ないムービーシーンでは、そこで何が描写されているか情報が得られなかったのです。

 しかし、2022年にPS5ソフトとして発売された『The Last of Us Part I』ではオーディオディスクリプションが実装され、その問題も解消されました。そして2024年1月19日に発売された『The Last of Us Part II Remastered』では、ムービーにもオーディオディスクリプションが追加されました。同社のフットワークの軽さの背景には、海外の障害のある方たちの活発さがあるようです。

 その象徴のひとつが、Webメディアの「Can I Play That?」です。車いす生活を送るジョシュア・ストラウブさんが編集長を務める同サイトは、さまざまなゲームソフトをアクセシビリティの観点から徹底的にレビューしています。

ゲームにおけるアクセシビリティの情報を提供するWebメディア「Can I Play That?」
ゲームにおけるアクセシビリティの情報を提供するWebメディア「Can I Play That?」

「障害のある方たちが自ら積極的に声を上げる姿は、日本も見習ってよいところだと思います」

 さまざまな分野で活躍する田中さんは、2023年10月20日にSIEから発売されたPS5ソフト『Marvel’s Spider-Man 2』のオーディオ・ディスクリプション(音声解説)制作にも携わりました(※2024年1月30日時点では未実装で、2024年今後のアップデートにて実装予定)。

 同作は「あらゆるアクセシビリティが実装されたゲーム」として現状で最も進んだ事例のひとつです、と田中さんは強調します。

SIEの子会社のひとつであるアメリカのインソムニアックゲームズが開発を手がけた『Marvel's Spider-Man 2』
SIEの子会社のひとつであるアメリカのインソムニアックゲームズが開発を手がけた『Marvel's Spider-Man 2』

 ハイコントラスト表示オプションやカラー変更のほか、すべての場面にオーディオディスクリプションのナレーション音声が付いており、視覚障害のあるプレイヤーでも重要な情報をリアルタイムで捉えられるよう設計されています。

 また発達障害等により素早い反応が苦手なプレイヤーに対しては、ゲームスピードも変更できるよう、ショートカットボタンにリアルタイムの70%、50%、30%割合の速度を割り当てることができます。これによりアクションがゆっくりになり、ゲーム内のアクションシーンなどで反応する時間を増やせます。

『Marvel's Spider-Man 2』より「ゲームスピード」変更のアクセシビリティ設定画面
『Marvel's Spider-Man 2』より「ゲームスピード」変更のアクセシビリティ設定画面

 このほか敵の体力や敵から受けるダメージの調整、蜘蛛のような糸を使って高速移動するウェブスイングの操作アシスト、ボタンの連続押下と押しっぱなしの切り替え、カメラ操作の感度やピッチの調整、オーディオの高周波や低周波のカット、点滅エフェクトやモーションブラー効果のオフ・調整、パズル要素へのヒント機能の表示など、調整できる項目は枚挙にいとまがありません。

アクセシビリティを“自分たちのこと”と捉えるのが大切

「アクセシビリティは障害のある方だけのものではない」と解説する田中さん
「アクセシビリティは障害のある方だけのものではない」と解説する田中さん

 田中さんにアクセシビリティとは何かをあらためて問うと、問題の根幹は作り手を担うのが健常者ばかりで、しかも同じ健常者に向けてモノづくりをしていることにあるといいます。

「障害のある人が身近にいれば、健常者も自然とその人たちのことを考えます。もし最初からそういう社会であれば、アクセシビリティという概念は生まれずに済んだかもしれません」

 アクセシビリティという概念を必要としない平等な世界。それを目指しているのが畠山さんであり、柳瀬さんと山本さんであり、田中さんですが、健常者のゲームファンにもできることはあるのでしょうか。田中さんに尋ねてみると、返ってきた答えはとても取り組みやすいものでした。

「ゲームを遊ぶ時に、アクセシビリティ設定を試してみてください。アイテムの位置を音で知らせるサウンド機能や日本語音声に対する日本語字幕など、さまざまな感覚の違いを体感できますし、本来もっと多様なはずの“健常者”と言われている人たちにとってもゲームがより遊びやすくなる機能が見つかると思います」

 誰かのためではなく、自分が楽しむためにアクセシビリティ機能を活用する。そうするだけで、やがて日常の見え方も変わってくるといいます。

「鉄道の車内や、駅構内での緊急時にアナウンスが音声だけの社会は心もとないと思いませんか? ゲームで母語の字幕機能に親しめば、そういう気づきにもつながります。ゲームを愛するみなさんがアクセシビリティを“自分たちのこと”として考えられるようになれば、ゲームのアクセシビリティの在り方は自然と変わっていくでしょう」

『ストリートファイター6』
(C)CAPCOM

『The Last of Us Part II』
(C)2020 Sony Interactive Entertainment LLC. Created and developed by Naughty Dog, LLC.

『Marvel’s Spider-Man 2』
(C)2023 MARVEL (C)2023 Sony Interactive Entertainment LLC. Developed by Insomniac Games, Inc.

(C)Sony Interactive Entertainment Inc. All rights reserved.
Design and specifications are subject to change without notice

(マグミクス編集部)

【画像】えっ、こんな機能も? 知られざる「ゲームのアクセシビリティ」最前線を写真で見る(28枚)

画像ギャラリー

1 2 3