声優・甲斐田裕子さん、「音声生成AI」「倍速視聴」に警鐘 「役者は<余白>を演じている」
その他、AIボイスチェンジャーを公式に販売する声優も登場しています。森川智之さんや後藤邑子さんは、前出のヨミビト・プラスにも技術協力しているCoeFontから公式ボイスチェンジャーを発表しています(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000058.000078329.html)。
また、業界内でもAIに期待する声はあるようで「日本俳優連合で行ったAIについてのアンケートでは、『AI反対』と『対価をきちんともらえて公式に提供するなら賛成』という意見が、およそ半々の結果でした。どこまでAIによる『表現』を許すかなど使われ方に対する考え方もさまざまですが、なかには早く引退してAIに稼いでもらいたいという考えの人もいます」といいます。
近年は、体調不良によって休業する声優の話題も目立ちますが、療養中でもAIがあれば稼げるという考え方もあるかもしれません。しかし、故人の名優の芝居をずっと利用可能になれば、新人がデビューできる機会は減少するでしょうから、AIボイスの活用は業界全体が縮小する可能性もあり、非常に難しい問題です。
AIと人間の芝居はどう違う?

さらに、声優にとって重要な「芝居」の問題があります。
甲斐田さんは「生成AIの芝居と人間の芝居はやっぱり違うと感じます」と明言します。
「現状のAIの芝居では作品づくりは無理だなと思います。先日、とある洋画の名作の吹替版を観ていたんですが、先輩声優たちの名演には、行間に輝きが存在しているんです。芝居作りには間や余白のようなものもすごく大事で、そういうものを表現できるのは、今のところ人間だけではないかと思います」(甲斐田さん)
NAFCAで事務局長と広報を務める声優の福宮あやのさんは「羽佐間道夫(代表作:『ロッキー』ロッキー・バルボア役、『銀河英雄伝説』ワルター・フォン・シェーンコップ役等)さんは、『AIは息ができない』とおっしゃっていました。そういう行間を読み、言葉以外も含めて表現する力は、人間とAIとでは、大きく違うはずです」と言います。
さらに福宮さんは「芝居を聴く側にとっては、耳が慣れてしまえば、AI音声でもいいとなってしまうかもしれません。役者は、観客の耳を育てることも使命と思っています」と語ります。
しかし、現実には耳を育てる環境は少なくなっているかもしれません。例えば昨今、映像作品を「倍速視聴」する人も増えています。倍速で観れば声の芝居にある間や余白は感じられなくなるのは必然です。
「行間や余白も含めて表現するのが芝居なのですが、倍速ではまるごとカットされてしまいます。たとえば、『ありがとう』というセリフを言っていても、実は内面では『殺すぞ』って思っているかもしれない。そういう表現の真意を読み取れなくなってしまうと思うんです」(甲斐田さん)
AIは加速度的に成長を続けており、人間の俳優・声優はそんなAIと競争することになりますが、それは、演者だけの問題ではなく、観客・視聴者側がどんな芝居を評価し、欲するかも問われているのかもしれません。
コロナ禍で密になるのを防ぐために導入されたアフレコの分散収録も、ある程度定着しているようで、若手がベテランから芝居を学ぶ機会が以前よりも少なくなっていることも、この問題に拍車をかけている面があると甲斐田さんは感じているようです。人間の役者が育つ環境が失われれば、それこそAIで代替可能という風潮も強まる可能性が高くなるでしょう。
アメリカでは業界ルール策定の動きが進む
またアメリカでも、声優のAIに対する危機感が強まっており、権利保護のための動きが活発になっています。昨年、ハリウッドの俳優らがAIからの権利保護を求め大規模なストライキを行ったことは日本でも大きく報じられましたが、さらに先月、TVアニメに関する新たな契約が締結されたようです。
アメリカの映画俳優組合(SAG-AFTRA)は、「アニメーションの声優は人間でなければならない」という文言を契約に含めるように主張し続け、その権利を勝ち取ったといいます。また、合成音声を作成する際にも組合に報告することが義務付けられたとのことです(https://branc.jp/article/2024/03/26/1013.html)。これらの取り決めは法律ではなく、業界内のルールとして策定されています。
技術革新と権利のバランスは常に難しい議論となりますが、日本の声優たちが築き上げてきた質の高い芝居は、素晴らしい技術の結晶といっても過言ではないでしょう。倍速視聴やAI音声が大きく広がっている昨今において、我々に求められるのは「芝居」を楽しむリテラシーなのかもしれません。
(杉本穂高)





