『るろうに剣心』アニメの内容と合ってない主題歌「そばかす」が生まれたワケ 想像以上の「無茶ぶり」だった?
29年前の1月に放送開始したアニメ『るろうに剣心』の内容と主題歌が全く合っていなかったのは有名な話です。そのミスマッチした曲が現在まで語り継がれるようになったのは、さらなる謎といえるでしょう。その発端は、「2日で作って」という無茶な依頼でした。
内容と全く合ってないのに「これしか考えられない」

人気マンガがアニメ化された時、その主題歌の多くは作品の内容を反映している、あるいは作品のイメージに沿ったものが選ばれるのが定番です。「週刊少年ジャンプ」の作品群を例に挙げるとすると、『ドラゴンボール』の「魔訶不思議アドベンチャー!」(高橋洋樹)や、『キン肉マン』の「キン肉マン Go Fight!」(串田アキラ)などがわかりやすいでしょうか。
一方、タイアップなどの要請で選ばれた曲が、作品内容とミスマッチしてしまうケースもしばしば見られました。その最たる例こそ、今から29年前の1996年1月に放送開始した『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-』の主題歌でしょう。ある意味において奇跡とも言える化学反応が発生したのですから。
『るろうに剣心』といえば、かつては「人斬り抜刀斎」と恐れられた主人公・緋村剣心が自身に「不殺」の誓いを立て、明治維新後の激動の時代を戦い抜く物語です。まさに「明治剣客浪漫譚」なのです。さて、この作品がアニメ化された際、最初にオープニング曲として採用されたのが……ロックバンドJUDY AND MARYの「そばかす」でした。
なぜ。
オープニングは「大キライだったそばかすをちょっと」と、ボーカルYUKIのあの歌声とともに剣心が小舟で川をわたる映像が流れます。どういうことでしょうか。大前提として、歌詞全体が少女の失恋と感傷を軽やかに歌い上げた名曲で、間違っても剣心の心情を歌ったものではありません。
この曲、ジュディマリとしても急な依頼でした。突然、アニメのタイアップ曲を「2日で作れ」と無茶な依頼があり、どんな内容のアニメかもわからないままだったといいます。YUKIさんもとりあえず『キャンディ・キャンディ』をヒントに詞を書き、完成したのが「そばかす」なのでした。
作品内容に合ってないのは「大人の都合」によるものでした。ところが、なぜか『るろうに剣心』の主題歌として、どこか切ないYUKIさんの歌声が、原作がもつ血生臭い緊張感に優しい膨らみをもたらしてくれたのです。はっきり言って、最高の主題歌です。
さて、そんなアニメ『るろうに剣心』の2代目主題歌に抜擢されたのがシンガーソングライター川本真琴さんの「1/2」でした。だからなぜなのか。
ジャカジャカと駆け出すようなアコギのイントロから、川本真琴さんの弾む歌声で「背中に耳をぴっとつけて 抱きしめた」と始まります。その時のオープニング映像は雪のなか、ひとり立つ剣心の後ろ姿であり、その後も曲後半の「愛してる 愛してる」の箇所で強敵、四乃森蒼紫の顔がアップになるのです。こちらも、計測不能のミスマッチです。
なのになぜかキャラクターの深層心理のようにも思えてくるから不思議です。歌詞ではなく、「音」と「映像」のタイミングが完璧という点も大きいのかもしれません。
そして嬉しいことに、2023年から『るろうに剣心』が再びアニメ化されました。第1期『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚- 序幕東京』、注目すべき主題歌はというとYOASOBIのAyaseさん、Creepy NutsのR-指定さんが担当した『飛天』という曲です。
隅々まで組み込まれた要素から分かる通り、今は懐かしき「ミスマッチの奇跡」など期待しようがない圧倒的な完成度です。想い出はいつもキレイだけれど、それだけを期待してはならないのです。
(片野)