『トトロ』2秒ほど映る「白い謎生物」は何者? ススワタリじゃないのは確かだけど
『となりのトトロ』には、「まっくろくろすけ(ススワタリ)」ではない謎の生き物が映り込んでいます。絵コンテをヒントに、その謎を追います。
「これでススワタリの出番オワリ」絵コンテに書き込まれた謎のメモがヒント?

スタジオジブリ作品のなかでも、とりわけ子供たちに人気のある『となりのトトロ』(監督:宮崎駿)は、「金曜ロードショー」でもこれまでに19回も放送されている、誰もが知る名作アニメ映画ですが……そこに映り込む「謎の生物」のことをご存じでしょうか。
それが登場するのは物語のクライマックスでした。迷子になった「メイ」を探すため、「サツキ」が必死に「お願い。トトロのところへ通して」と塚森へ向かい、木のトンネルをかき分けて進むシーンです。
狭い木のなかをひたすら駆けるサツキが描かれている場面では、画面左には連なって逃げる「ススワタリ(まっくろくろすけ)」もいます。そして、画面右上に目をやると……何やら、白いフジツボやキノコのような形をした小さい生き物が3匹、画面の外へと逃げていくのです。時間でいえば、わずか2秒程度の登場でした。果たして、こいつらはいったい、何者なのでしょうか。
幸いなことに、ジブリ作品は「絵コンテ集」が徳間書店から発売されているため、手元の『となりのトトロ スタジオジブリ絵コンテ全集<3>』を開きました。該当シーンはカット番号の「857」に当たるはずなのですが……不思議なことに、確かに見えた謎生物の記述が、何もないのです。
公式「絵コンテ集」には、表情の変化一つひとつまで、細かく描き込まれています。カット番号の「857」の部分には、映画同様に枝をつかんでトンネルを登るサツキの様子が、細かく指示されているのですが、映画で確認できる白い生物は描かれていません。
なおこの「絵コンテ集」には付録として、「欠番」や「追加」となったカットも番号で記述されています。ところが、そこにもカット番号「857」前後で「白い生物」が追加されたことなどは、書かれておりません。まったくもって、謎は深まるばかりです。
ひとつだけ、解決の糸口になりそうなのが、カット番号「857」の直前に書かれた、宮崎駿監督による書き込みです。
「これでススワタリの出番オワリ」
このメモは重要です。謎生物登場の直前に当たるカット番号「856」の絵コンテでは、木のトンネルを駆け抜けるサツキを、ススワタリが驚いたように見送る描写が続きます。ここは映画本編でも同じです。
そのカットが切り替わるところで、「これでススワタリの出番オワリ」の書き込みがありました。そして、その直後で謎の生物たちが出てくることに、何かヒントがあるような気がしてなりません。少なくとも「白い生物」は、ススワタリの白いバージョンではないことは確かです。
逆にいえば、「ススワタリの出番オワリ」だからこそ必要に応じて描き加えられた生物、という解釈も可能でしょう。しかしながら、前述の通り、このシーンにはススワタリも登場しているので、その矛盾は気になるところではあります。現在もなお決定的な答えこそ判明していませんが、いずれにせよこの宮崎監督による書き込みにヒントがあることは間違いなさそうです。
トトロは劇中において「子供のときにだけ あなたに訪れる不思議な出会い」という設定でしたが、筆者はもう中年です。この「白い謎生物」は、中年にしか見えないのでしょうか。白いフジツボより、トトロが見たい気もしますが、こんな不思議な出会いもまた悪くはないのでしょう。
参照:『となりのトトロ スタジオジブリ絵コンテ全集<3>』(徳間書店)
(片野)