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「ガンダム」のMSでまれに見る「ジムヘッド」等のニコイチ機 現実の戦闘機でもある?

2台の事故車両から使える部分やパーツを寄せ集め1台の自動車に組み上げることを「ニコイチ」といい、「ガンダム」シリーズの精密電子機器レベルのMSなどにも見られます。現代戦闘機も精密機器そのものですが、ニコイチ修理はやっているのでしょうか。

ツギハギだから「フランケン」

『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』ではキンバライト基地のジオン残党にニコイチ整備のザクが見られた。「MG 1/100 MS-06F-2 ザクII F2型(キンバライト基地仕様)」(BANDAI SPIRITS) (C)創通・サンライズ
『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』ではキンバライト基地のジオン残党にニコイチ整備のザクが見られた。「MG 1/100 MS-06F-2 ザクII F2型(キンバライト基地仕様)」(BANDAI SPIRITS) (C)創通・サンライズ

 機械が戦う世界において、パーツの共用、流用、そして即興的な改修は、生き残るための知恵であるといえるかもしれません。「機動戦士ガンダム」シリーズではしばしば、異なるモビルスーツ(MS)のパーツを組み合わせた「ニコイチ」機が登場します。たとえば『機動戦士ガンダムZZ』本編で印象的だった通称「Zザク」は、「ザクII」の頭部を載せた「Zガンダム」でした。『機動戦士ガンダム第08MS小隊』には、「陸戦型ガンダム」に「ジム」の頭部を取り付けた機体が登場しています。こうした急場しのぎとも、合理主義ともとれる姿は、果たして現実の軍用機運用にも通じるものなのでしょうか。

 答えは「イエス」です。しかも、それはただの妄想ではなく、現代最先端のステルス戦闘機にすら及んでおり、その最たるものが、F-35の再生機、通称「フランケンバード」でしょう。

 F-35はロッキード・マーティン社が開発した第5世代ステルス戦闘機であり、1機あたりの価格は約8000万ドル(115億円)にも上ります。調達コスト、維持コストともに非常に高価なため、損失は国家レベルの痛手となります。そうした背景もあり、アメリカ空軍は近年、事故で損傷した2機のF-35Aをベースに、1機の「再生機」を製作したのです。

 死体を集めてつなぎ合わせた人造人間を巡るゴシック小説『フランケンシュタイン』(著:メアリー・シェリー)にちなんだ名が与えられた「フランケンバード」は、2014年にエグリン空軍基地で深刻なエンジン火災に見舞われた「AF-27(A型の27号機)」の機首部分と、2020年にヒル空軍基地で着陸装置の破損事故に遭った「AF-211」の胴体部分を流用しました。それぞれエンジン部、機体後部、機首前部、電装系などにダメージを負っていましたが、無傷に近い部分を抽出し、1機分の機体に再構成することになります。

 空軍の整備員たちとロッキード・マーティンのエンジニアや技術者は、いずれの機体も搭載機器は全て外しほぼ「空っぽ」の状態にまで解体しました。そして2機を接合し機体の配線をやり直し、コックピットや航空電子機器のコンピューターを再構築したのです。作業は1年以上を要しましたが、投じられたコストは1170万ドル(17億円)であり、新規調達よりも格段に安価に仕上げることに成功しました。2025年1月16日、フランケンバードは初飛行を実施し、4月8日に実戦配備機へと復帰しています。

 この「フランケンバード」が実験機ではなく、正規の作戦機として復帰した事実は、部品の「寄せ集め」であっても、ステルス性、航続性能、武装搭載能力などが基準を満たすと確認され、性能を損なわない戦闘機が成立したことを意味します。通常、飛行機には「個体差」が生じるため「ニコイチ」は容易ではない場合があります。F-35は生産時点において高度に規格化された各モジュールが、公差内に収まっていたからこそ実現できたと考えられます。

 ザク頭のZガンダムのような異機種間における互換性を求めるのは、やはりフィクションならではの大胆さといえますが、視聴者の笑いを誘うようなシーンであっても、その根底にある「なんでも使えるものは使う」という思想は、現実の世界にも通じるリアリティがあったのだといえるのではないでしょうか。

(関賢太郎)

【画像5枚】「陸戦ガンダム」と「ジムヘッド」比較&ニコイチ修理中のF-35A

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関賢太郎

1981年生まれ。航空軍事記者、写真家。航空専門誌などにて活躍中であると同時に世界の航空事情を取材し、自身のウェブサイト「MASDF」(http://www.masdf.com/)でその成果を発表している。著書に『JASDF F-2』など10冊以上。