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理想の上司、最悪の部下? 『パトレイバー』人気キャラ「後藤隊長」の二面性

「パトレイバー」シリーズの主要人物のひとり、「後藤隊長」こと「後藤喜一」は、いまなお「理想の上司」として話題に上るキャラクターです。そう評される理由を見ていきましょう。

だらしなさの裏に秘めた信念 後藤隊長の魅力とは

主要キャラのひとり、後藤隊長こと後藤喜一。『機動警察パトレイバー ON TELEVISION』第19話「ジオフロントの影」より (C)HEADGEAR/BANDAI VISUAL/TFC
主要キャラのひとり、後藤隊長こと後藤喜一。『機動警察パトレイバー ON TELEVISION』第19話「ジオフロントの影」より (C)HEADGEAR/BANDAI VISUAL/TFC

『機動警察パトレイバー』に登場する特車二課第2小隊の隊長「後藤喜一」は、一部では主人公「泉野明」をしのぐほど根強い人気を誇っています。オールバックにした髪型に三白眼、緩めたネクタイにサンダル履きという、いかにも「だらしない中間管理職」風の中年男が、初登場から30年あまりを経たいまなお愛され続けているのは驚くべきことです。

 一見するとつかみどころのない昼行灯ですが、「悪党と紙一重の切れ者」と評されたり、「理想の上司」と讃えられたりすることもあります。こうしたひと言では表現しきれない複雑さこそが、後藤隊長の奥深い魅力なのでしょう。

 普段は「特車二課で一番偉いのは整備班長の榊、次が第一小隊の南雲隊長、その次にようやく後藤隊長」と揶揄(やゆ)されることもあります。しかし、いざ事態が動き出すと、この昼行灯ぶりが敵の目を欺くカモフラージュとなり、鋭い暗躍を可能としています。

 たとえば初期OVA版第5話、第6話「二課の一番長い日」では、軍用レイバー強奪事件の首謀者とその本当の目的をいち早く見抜き、特車二課本部が襲撃される前に「イングラム1号機」を篠原重工の工場へ移送させていました。さらに、首謀者が隠し持っていた核ミサイルの位置を突き止め、奇襲により壊滅させています。

 こうした「先読みし、警察組織の枠を超えて行動する」手腕は、劇場版2作でも冴えわたっています。特に注目すべきは、後藤隊長が所属する警備部には正式な捜査権がない点です。それにもかかわらず、独自に捜査を進め、関係各所に詳細不明なパイプを持っていることからも、その人脈の広さと深さがうかがえます。

 後藤隊長が「理想の上司」と称されるのは、マンガ版の「助言はしてやれ、手助けはするな」というセリフに集約されているといえるでしょう。これはOSの起動に苦戦する野明に対し、「篠原遊馬」が手助けを申し出た際に発した言葉であり、部下には自ら苦労させて成長を促す姿勢を示しています。同時に「部下にしてみりゃ上司なんてさ――こんなとき以外利用価値ないよ」とも語り、現場に責任を押し付けない保証も与えていました。

 ただし、これは必ずしも自分が責任を負うことを意味しません。劇場版第1作では、未曾有のレイバー暴走災害を防ぐため「方舟」破壊作戦を強行し、警備部長に作戦容認を取り付けた上で「なんせ台風のすることですから」と、誰の責任にもならない逃げ道を用意した絶妙ぶりです。

 もっとも、すべてが丸く収まるわけではありません。テレビシリーズ第17話「目標は後藤隊長」では、元上司の「祖父江」に恨みを買っていたことが描かれ、「理想の上司、最悪の部下」といったところです。

 こうした後藤隊長の根底にあるのは、熱い理想を秘めた冷徹な現実主義です。事件の被害者を救えないことに悩む野明に対しては、警察を風邪薬にたとえ「俺たちの仕事は本質的にいつもておくれなんだ」と語りながらも、「解熱剤には解熱剤なりのプライドがある」と諭していました(マンガ版)。また、劇場版第2作では「不正義の平和だろうと、正義の戦争よりよほどマシだ」と言い切り、厳しい現実を見つめながら、仲間や市民を守ろうとする強い理想を貫いています。

 この現実主義は、部下への接し方にも表れています。劇場版第2作では、定時になったため帰宅してよいかと尋ねた新世代の部下に対して「いいんじゃない?」と皮肉交じりに返事をし、実際に帰ってしまった部下を見送りながら「いいわけないじゃないの」と失望をにじませています。その後、彼らには目もくれず、元第2小隊のメンバーを呼び戻しており、「見どころのある部下は育てるが、やる気のない部下は見捨てる」という冷酷な本音をのぞかせました。こうしたダークな一面も含め、後藤隊長は唯一無二の存在感を放っているのです。

■機動警察パトレイバー公式サイト
https://patlabor.tokyo/
■機動警察パトレイバー公式Xアカウント
https://twitter.com/patlabor0810
■A-on STORE(公式ショップ)「機動警察パトレイバー ON TELEVISION BD-BOX 1」
https://a-onstore.jp/item/item-1000190887/

(多根清史)

【画像】えっ、最近じゃん!? こちら令和に出版された後藤隊長の単独ムック本です

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多根清史

フリーライター。主にゲーム・アニメ・漫画を守備範囲としてきたほか、ここ数年は(個人的なガジェット好きもあり)iPhoneやスマートフォン、インターネットやPCなどハイテク全般の記事も執筆。著書に『宇宙世紀の政治経済学』『教養としてのゲーム史』、共著に『超ファミコン』『ゲーム制作 現場の新戦略 企画と運営のノウハウ』など。