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『あんぱん』で“新境地”の松嶋菜々子、多彩な母親像から分かる「柳井登美子」の異質さ

現在、NHK連続テレビ小説『あんぱん』で強烈な母親役を演じている松嶋菜々子さん。すっかり母親役のイメージが定着していますが、本作での「柳井登美子」は異質の存在です。彼女の個性は、松嶋さんがこれまで演じてきた役柄を振り返ると、より際立って見えてきます。

朝ドラヒロインから母親役、そして新境地へ

NHK連続テレビ小説『あんぱん』で「柳井登美子」役を演じる松嶋菜々子さん。(2020年1月、時事通信フォト)
NHK連続テレビ小説『あんぱん』で「柳井登美子」役を演じる松嶋菜々子さん。(2020年1月、時事通信フォト)

 いまではすっかり「母親」役のイメージが定着している松嶋菜々子さんですが、現在放送中のNHK連続テレビ小説『あんぱん』で演じる「柳井登美子」は、過去作の役柄を振り返ってみてもかなり異質な存在です。実の息子である「柳井嵩(演:北村匠海)」の人生を事あるごとにかき乱す姿は、松嶋さんにとっていままでにない母親像であり、ここに来て新境地を切り開いているといえます。

 そもそも松嶋さんの母親役のイメージは、いつ頃から定着したのでしょうか? 彼女が俳優として本格的に活動を始めたのは、1996年放送のNHK連続テレビ小説『ひまわり』がきっかけです。松嶋さんはこのドラマで初主演を飾り、バブル崩壊後の社会で弁護士を目指す、新しい時代の働く女性を演じました。

 そして1998年にはドラマ『GTO』の「冬月あずさ」、1999年には『魔女の条件』の「広瀬未知」、2000年には『やまとなでしこ』の「神野桜子」を演じ、魅力的で美しいヒロイン像を確立していきます。それだけに、2005年放送の終戦六十年スペシャルドラマ『火垂るの墓-ほたるのはか-』で戦時中の母親役を演じた際には、「あの松嶋菜々子が……?」と多くの人が衝撃を受けたのではないでしょうか?

 本作で松嶋さんが演じたのは、4人の子供を育てる母親「澤野久子」です。空襲で母親を亡くした「清太」と「節子」をはじめは優しく迎え入れるものの、戦争という極限状態のなかで、次第に心を鬼にせざるを得なくなるという難しい役どころでした。

 それまで「美しい女性」や「理想的なヒロイン」としてのイメージが強かった松嶋さんが、疲労や苦労のにじむ母親役を演じ、しかも清太たちに冷たく接する姿を見せたことは、強烈な印象に残ったはずです。

 ただ一方で、当時は「美しすぎる」「若すぎる」といった声も少なくなく、この時点ではまだ「松嶋菜々子=母親」というイメージが十分に定着していたとはいえません。やはり転機となったのは「パブロン」のCMではないでしょうか?

 パブロンのCMキャラクターは竹下景子さんが長く務めていましたが、2011年に約15年ぶりのキャスト交代が行われ、松嶋さんが新たな母親役を務めることになりました。以降、彼女は同CMで優しい母親を演じ続け、「松嶋菜々子=母親」というイメージを着実に定着させています。

 とりわけ2019年のNHK連続テレビ小説『なつぞら』で演じた「柴田富士子」は、パブロンのCMで積み重ねてきた松嶋菜々子像が、結実した形といえるかもしれません。戦争孤児となったヒロイン「奥原なつ(演:広瀬すず)」の育ての親として、血のつながりはないものの、誰よりもなつに寄り添い温かく見守る姿は、まさに「理想の母親」という印象を与えました。

 そして2025年、令和最新の朝ドラ『あんぱん』で挑戦したのが、「登美子」というキャラクターです。彼女は『なつぞら』で演じた優しい母親とはほとんど真逆の存在で、いわゆる毒親といわれるようなキャラクター像。実の息子である嵩を捨て、冷たく突き放したと思えば、また突然現れて嵩やその周囲をかき回す神出鬼没な母親として描かれます。

 とはいえ、息子への愛情がまったくないわけでもありません。戦場へ行こうとする嵩を街の人たちが「万歳!」と送り出しているなか、非国民扱いされることも恐れずに「生きて帰ってきなさい!」と声をかけるシーンは、初めて母親らしい一面を見せた瞬間でもありました。

『あんぱん』で登美子を演じたことは、松嶋さんにとって間違いなく新境地といえます。今後も彼女が描き出す、多彩な「母親像」の変遷から目が離せません。

(ハララ書房)

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ハララ書房

エンタメ記事専門の編集プロダクション。漫画・アニメ・ゲームはもちろん、映画やドラマ、声優にも精通。メイン・サブを問わず、カルチャーの最前線を追いかけていきます。

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