「温度差で風邪引くって!」大河『新選組!』山南ロスを救った“伝説のコメディ回”を覚えてる?
三谷幸喜さん脚本の大河ドラマ『新選組!』は、歴代シリーズのなかでも特に人気の高い作品です。とりわけ「山南敬助」の最期を描いた第33回「友の死」は、屈指の名エピソードとして語り継がれていますが、その翌週に放送された第34回「寺田屋大騒動」も視聴者に大きな衝撃を与えました。
山南ロスに沈んだ視聴者の救い「寺田屋大騒動」

2004年に放送されたNHK大河ドラマ『新選組!』といえば、「山南敬助(演:堺雅人)」の最期を描いた第33回「友の死」があまりにも有名です。年末にアンコール放送されるほどの大きな反響を呼びましたが、その翌週に放送されたエピソードも忘れてはなりません。
涙のあとに訪れたまさかの急転調……。それは、山南ロスに沈んだ視聴者を救った回でもありました。
●局長も鬼の副長も泣いた山南さんの死
本作の脚本を手がけたのは、「古畑任三郎」シリーズや『王様のレストラン』などで知られる三谷幸喜さんです。新選組局長「近藤勇(演:香取慎吾)」を主人公に、怒涛の時代を生きた隊士たちの青春群像をユーモラスに描き、これまで大河ドラマをあまり見てこなかった世代にも新たなファン層を広げました。
そのなかでも、第33回「友の死」は多くの視聴者の心を揺さぶったエピソードとして知られています。山南は、近藤らとともに壬生浪士組(のちの新選組)を結成した頃からの隊士です。しかし組織が大きくなるにつれて方針の変化や自身の存在価値に疑問を抱き、やがて脱走を決意します。新選組には「脱走した者は切腹」という鉄の掟があることを知ったうえでの決断でした。
最終的に山南は、新選組屯所に連れ戻されて切腹を受け入れます。しかし近藤をはじめとする隊士たちは、誰ひとりとして彼の死を望んでいませんでした。追っ手は出しても山南が逃げ切れるように配慮し、屯所に戻された際には脱走の手助けをしようとする隊士さえいたほどです。
それでも山南の決意は揺らぐことなく、近藤は他の隊士たちに示しをつけるため、やむを得ず山南に切腹を命じました。すべてが終わったあと、堰(せき)を切ったように泣き崩れる土方と、それを支える近藤の姿は、多くの視聴者の胸を打ったはずです。
●山南ロスに沈んだ翌週、放送されたのは……
このように第33回「友の死」は、深い悲しみに包まれた回でした。では、それに続く第34回「寺田屋大騒動」はどんな話だったのかというと、悲しみの余韻を吹き飛ばすかのようなドタバタ喜劇が繰り広げられます。もう少し踏み込んでいうなら、近藤局長の修羅場回だったのです。
このエピソードでは、近藤が懇意にしていた遊女の「深雪太夫(演:優香)」を身請けしようと、伏見の寺田屋に迎え入れた矢先、まさかのタイミングで正妻「つね(演:田畑智子)」が江戸からやって来てしまいます。慌てた周囲は、「井上源三郎(演:小林隆)」が身請けしたことにしようと機転を利かせますが、そこへ近藤を助けるために土方たちも乱入。「その女は俺を追いかけてきたんだ」と余計な助け船を出した結果、深雪太夫をめぐって井上と殴り合うという、カオスな状況へ発展しました。
必死にお芝居する源さん、その努力を台無しにした土方、なぜかこの茶番にノリノリな深雪太夫……。最後に近藤が放つ「そこまでだ、もういい! みな、それなりにありがとう!」のひと言まで、まるで完成度の高いコントのようなエピソードでした。
当時リアルタイムで観ていた人にとっては、前話との温度差で風邪をひきそうになるほどの展開だったわけですが、この「寺田屋大騒動」に救われた視聴者も少なくありません。「寺田屋大騒動が重かった空気をリセットしてくれた」「山南切腹回後のあのドタバタは救いだった」などの声があるように、まさに悲しみをやわらげる処方箋のような回だったのです。
現在、NHKオンデマンドなどでは『新選組!』が順次配信されています。2025年10月9日時点では、まだ山南切腹回も寺田屋大騒動も配信されていませんが、今後視聴できるようになった際には、ぜひこの2話をセットで味わってみてください。
(ハララ書房)
