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現場スタッフ大苦戦! 1962年ゴジラ映画に登場した「どう見ても本物」な怪獣 最後は「みんなで食べた」?

映画『キングコング対ゴジラ』に登場した海の怪獣に、制作スタッフは大苦戦。二大怪獣の対決の裏で、「悪魔」のような怪獣と戦った人々の苦労とは?

「スタッフが美味しくいただきました」の元祖?

1962年の映画『キングコング対ゴジラ』。両者の激突の裏側で、人間のスタッフたちが戦っていた相手は?(画像:ジャパネットブロードキャスティング) (C)東宝
1962年の映画『キングコング対ゴジラ』。両者の激突の裏側で、人間のスタッフたちが戦っていた相手は?(画像:ジャパネットブロードキャスティング) (C)東宝

「ゴジラ」シリーズを代表する怪獣特撮の撮影現場というものは、とにかく過酷です。スーツアクターは重く、視界も狭い着ぐるみのまま、セットの中を転げ回り、美術スタッフはそのミニチュアセットを徹夜で作っては修理を繰り返し、撮影が始まると火薬がそのセットを爆破……まったく、修羅場の連続です。

 さて、ゴジラ、モスラ、キングギドラといったスター怪獣のなかでも、とりわけ現場スタッフが手こずったのは、どの怪獣だったのでしょうか。

 調べてみると……少し意外な怪獣のエピソードが証言として残っていました。その怪獣は1962年公開の映画『キングコング対ゴジラ』に登場しました。じゃあ「キングコング」かと思いきや、これが違うのです。特撮スタッフだけでなく、作曲者も含め、多いに現場を困惑させたのは、南太平洋の「ファロ島」で登場した「大ダコ」だったというではありませんか。

 確かに、あの大ダコは筆者も子供ながらに「どう撮っているのだろう」と不思議で仕方ありませんでした。というのも、その大ダコは、なかに人が入っている着ぐるみでも、操り人形のような操演でもなく、どう見ても本物のタコだったからです。今、改めて確認してみても、やはり生きているタコにしか見えません。

 実際はというと……その通り。生きたタコを使っていたのです。このシーンの演出を担当した中野昭慶さんのインタビューによれば、(当たり前ながら)とにかくタコが思い通り動かなくて困った、とのことでした。それにしては劇中、タコはヌルヌルとよく動いていました。

 いったいどんな手を使ったのかといえば、タコの近くに熱した棒を近づけ、嫌がって逃げる様子を撮影したのだとか。タコからすれば気の毒ですが、陸をヌルヌルと移動するあの不気味な映像の裏には、こんな苦労もあったのです。

1962年の映画『キングコング対ゴジラ』DVD(東宝)
1962年の映画『キングコング対ゴジラ』DVD(東宝)

 さて撮影もひと段落。今度は劇中音楽を作る段階に入りました。作曲者の伊福部昭さんもまた、頭を抱えてしまいました。ゴジラのメインテーマをはじめ、数々の名曲を生み出してきた天才がなぜ? 伊福部さんもまた後年のインタビューでこの時の苦労を激白しています。

 曰く「ゴジラなんかはねえ、作りものですから、これは音楽も手伝わないといけないという感じもするんですが、本物だったら、それだけでもいいみたいな。」

 ということで、なるほど、ゴジラは作り物だからこそ音楽の必要性を感じるのに対し、生きたタコは本物がゆえに音楽的演出が困難だったのです。現場スタッフも困らせ、作曲者も困らせ、なかなか、あのタコも気難しい役者だったことがうかがえます。

 ちなみに最終的にあのタコは、撮影が終わったらその日のうちに、旅館で調理されてスタッフの夕飯になったのでした。「スタッフが美味しくいただきました」の最たる例といえるでしょう。日本の「ゴジラ」とアメリカの「キングコング」が格闘した本作ですが、その背後にある「スタッフとタコの格闘」も意識しながら、もう一度観たい作品であります。

(片野)

※参考文献:『特撮をめぐる人々: 日本映画昭和の時代』(竹内博)

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