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現実になった『こち亀』のビジネスアイデア3選 先見の明がありすぎて予言書の域

「週刊少年ジャンプ」で実に40年にもわたり連載された『こちら葛飾区亀有公園前派出所』。『こち亀』といえば両さんが奇想天外なビジネスアイデアを思いつく回が印象的ですが、なかには本当に実現した(ように思える)ものも多く存在します。膨大なアイデアのなかから作者・秋本治先生の先見の明を感じさせる3つのエピソードを紹介します。

1年後に起こるブームも予測!予言書でありビジネス書『こち亀』

(画像:写真AC)
(画像:写真AC)

「最も発行巻数が多い単一マンガシリーズ」として今やギネス記録に認定されている秋本治先生による『こちら葛飾区亀有公園前派出所』(以下、こち亀)。2020年は五輪イヤーということで「四年に一度」でおなじみのあのキャラが登場するエピソードが久々に「週刊少年ジャンプ」本誌に掲載され話題を集めました。

 さて『こち亀』の黄金パターンのひとつに主人公・両津勘吉こと両さんが突飛でニッチなビジネスアイデアを思いつき、持ち前のバイタリティで軌道に乗せあっという間に億万長者になるも調子に乗った結果、無惨に破綻してしまう……というものがあります。この両さんのビジネスアイデアの凄いところは「現実にあってもおかしくない」と思わせてくれる説得力です。最後に失敗しても、その目の付け所はさすがという他ありません。そして40年の連載期間のなかで産み落とされてきた大量のアイデアには本当に実現してしまった、そう思えるものがいくつも存在します。国民的マンガ『こち亀』から現実世界に飛び出してしまったビジネスアイデアを含むエピソードを3つ紹介します。

●これってお台場にあるものでは!?「銭湯レジャーランド化計画!の巻」(74巻)

 1992年発売の74巻に収録された「銭湯レジャーランド化計画!の巻」というエピソード。潰れそうな銭湯・松ノ湯をリニューアルして復活させてくれないかと頼まれた両さん。翌日、徹夜して描いてきたという図面を開くと、そこには立派な天守閣がそびえる「松ノ湯ランド」の姿が! 遊園地も併設されており、スーパー銭湯とレジャーランドを掛け合わせた巨大アミューズメント施設の計画を打ち立てます。結局、このレジャーランド計画は資金面で頓挫してしまうのですが、後々の2003年に開業した日本初の温泉テーマパーク「お台場 大江戸温泉物語」はまさにこの時の両さんのアイディアを彷彿とさせるものではないでしょうか。『こち亀』は実に10年も時代を先取りしていたことになります。さらにこのエピソード内ではここ数年話題となっている老朽化した銭湯リノベーションにまで話が及びます。細やかなところまで時代感覚を先取る『こち亀』の象徴的な回といえます。
 

●1年後に見事的中!「ハイテクベーゴマ大ブーム!?の巻」(109巻)

 続いてご紹介するのは1998年発売の109巻より「ハイテクベーゴマ大ブーム!?の巻」。両さんが発案したベーゴマを現代風にアレンジした玩具が子供たちの間で大ブームを巻き起こすという話。なんとタカラトミーの大ヒット商品「ベイブレード」が発売するのはそれからわずか1年後の1999年。誰でも簡単に回せる仕組み、少年誌とタッグを組んでのマンガ・アニメ化、全国の小学生が路上でハイテクベーゴマに興じる姿など、ベイブレードブームで巻き起こった現象を1年前に予言するかのように描いています。もちろん、この回が「ジャンプ」に掲載された時点で「ベイブレード」の企画開発は進んでいたはず。玩具メーカーの時流をしっかり汲み取り、企画を的中させてしまう……何十年もの間、時代と並走してきた「こち亀」の凄味をはっきりと感じられる回です。

大手回転寿司チェーンの発想を先取ったアイデア!

●怒涛の寿司ビジネス案を展開!「擬宝珠一家vs電極一家!の巻」(125巻)

 21世紀に入っても両さんのビジネスアイデアの勢いはとどまることを知りません。2001年発売の125巻は両さんが正式に超神田寿司の社員になる巻だけあって寿司関連のアイディアがてんこ盛りです。例えば「擬宝珠一家vs電極一家!の巻」では、ハイテク社長・電極スパークがルーレット要素のある寿司ギミックを提案します。この既視感……まさしく大手回転寿司チェーンで採用されているあのシステムの原型を見ているかのよう! 他にもスパークは一時期話題になった「寿司職人の長期修行問題」にも言及し自分が開発してきたマシーンを売り込みます。寿司を取り巻く環境すべてを網羅するかのように次々とビジネスアイデアが飛び出し、それらが後々本当に現実世界に現れる……予言書『こち亀』恐るべしです。

 他にもちょっとコミックスのページを開けば「課金制の恋愛シミュレーションゲーム」「老人向けのゲームセンター」「仏像のカードゲーム」「東京の河川を利用したボートの出前システム」「3Dプリンタで作った実在の人物の等身大フィギア」……どこかで既に採用されているもの、これから採用されそうなアイデアが次から次へと登場し、改めてこのクオリティで40年間も連載していた事実に驚かされます。連載こそ終わってしまいましたが『こち亀』で描かれたアイデアはこれからも私たちの住む現実世界に登場してくれるに違いありません。『こち亀』は、永遠です。

(片野)