『Q』公開で困惑した観客 『シン・エヴァンゲリオン劇場版』は期待に応えられるか
庵野監督を消耗させたであろう、さまざまな事情
『序』『破』の成功は、そのまま興行側の期待にもつながります。『Q』が上映された際はTVのニュースでも大々的に報じられており、庵野監督にかかっていたプレッシャーは有形無形のものも含めて、膨大な物だったのは容易に推測できます。ただでさえ0から1を生み出すのはとてつもないエネルギーを必要とする作業です。常人とは比較にならないほどのエネルギーを持つ庵野監督でも壊れてしまう、それが『エヴァ』という作品なのでしょう。
また、GAINAX主体で制作されていたTV版『エヴァ』と、カラーで制作されている新劇場版は作品自体を取り巻く状況もまるで異なります。
『エヴァ』に関してはすでにすべての権利をカラーが保有しており、GAINAXは何の関係もありません。このような状況に至るまでの紆余曲折は庵野監督自身が2019年に特別寄稿という形で公開していますが、『エヴァ』のヒットによりGAINAX経営陣が乱脈経営を行い会社が傾いたこと、利益はクリエイターには還元されなかったこと、庵野監督が意見を出してもまったく採用されなかったことなど、お金がすべてを狂わせたことが述べられています。当時のGAINAX経営陣は庵野監督の学生時代の友人たちであり、多くの苦労を共に重ねてきました。庵野監督も昔のような関係に戻れないことを、非常に残念がっています。このような状況も、消耗につながっていたのではないでしょうか。
今の庵野監督の体調がどうなっているのかは分かりませんが、妻の漫画家・安野モヨコ氏や師匠筋の宮崎駿氏など、多くの人が支えとなってくれています。間もなく公開される新劇場版第四作、完結編となるはずの『シン・エヴァンゲリオン劇場版』では、きっとまた新しく、素晴らしい何かを見せてくれるでしょう。庵野監督は、何度も何度もファンの期待に応えるどころかそれ以上のことをやってくださった方です。何度裏切られようとも、何度も信じられる。庵野監督の持つエネルギーには、それだけの魅力があると筆者は考えています。
(早川清一朗)