押井守監督が恋のキューピッド役に? 実写映画に出演するアニメ監督たち
俳優としても引っ張りだこな庵野監督

アニメ界の人気監督が実写映画に俳優として起用されているケースは、今回の押井監督だけではありません。『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の公開が待たれる庵野秀明監督は、岩井俊二監督の『ラストレター』(2020年)で、松たか子さんの夫である漫画家役を実にユーモラスに演じてみせています。
アマチュア時代には自主映画『帰ってきたウルトラマン マットアロー1号発進命令』(1983年)に主演したこともある庵野監督は、俳優としての存在感もなかなかなものがあります。
松尾スズキ監督のコメディ映画『恋の門』(2004年)には、奥さまである漫画家・安野モヨコさんと夫婦役で共演しているほか、宮崎駿監督の長編アニメ『風立ちぬ』(2013年)では声優として航空技術者・堀越二郎を演じています。自分の理想を追求し続ける堀越の苦悩は、庵野監督自身と重なる部分があったのではでしょうか。
また、庵野監督は実写映画『シン・ゴジラ』(2016年)では、ゴジラの謎の鍵を握る学者・牧悟郎として、敬愛する岡本喜八監督を写真で登場させています。庵野監督は岡本監督の戦争映画を繰り返し観ることで、カット割りや台詞回しのテンポなどを学んだそうです。
『シン・ゴジラ』には他にも塚本晋也監督、犬童一心監督、緒方明監督、原一男監督、松尾スズキ監督らが出演し、限られた出番ながらそれぞれ個性的な印象を残しています。
戦中生まれの貫禄を感じさせる富野監督

アニメ界の巨匠といえば、『機動戦士ガンダム』(テレビ朝日系)の富野由悠季監督も忘れるわけにはいきません。樋口真嗣監督のSFパニック映画『日本沈没』(2006年)に、海外へ運び出される国宝級の仏像を神妙な顔で見送る京都の高僧役でカメオ出演しています。
ノンフィクション映画『日本のいちばん長い夏』(2010年)では、元陸軍大将・今村均として終戦時の記憶を振り返っています。戦中生まれのベテラン監督ならではの貫禄を感じさせます。『日本のいちばん長い夏』のDVDには、富野監督が参加したトークショーも特典として収録されているので必見です。太平洋戦争が『機動戦士ガンダム』に与えた影響を語っています。
普段は声優やアニメーターたちをディレクションする立場にあるアニメーション監督にとって、他の監督からの演出を受けるのは新鮮な体験のようです。アニメスタジオにずっと篭っての作業が多いので、実写映画の撮影現場を楽しみながら演じているように感じられます。
体全身を使う俳優としての体験が刺激となって、新作の創作意欲が湧くこともあるかもしれません。アニメーション監督たちの意外な俳優ぶりにも、一度注目してみてください。
(長野辰次)
●映画『花束みたいな恋をした』
脚本/坂元裕二 監督/土井裕泰 出演/菅田将暉、有村架純
配給/東京テアトル、東京テアトル 全国ロードショー中
・予告映像