マグミクス | manga * anime * game

押井守監督『攻殻機動隊2.0』がBSで放送、フェイクニュースの時代を予見?

「唯脳論」に基づいた世界観とは?

スカーレット・ヨハンソン主演により実写化された『ゴースト・イン・ザ・シェル』ポスタービジュアル
スカーレット・ヨハンソン主演により実写化された『ゴースト・イン・ザ・シェル』ポスタービジュアル

 サイボーグ化された捜査官たちが凶悪犯罪に立ち向かうという設定だけでも十分に楽しめる『攻殻機動隊』ですが、そこに押井監督ならではの思想・哲学が織り込まれ、幽玄美を感じさせる独特な世界観のSFアニメとなっています。押井監督の著書『ひとまず、信じない 情報氾濫時代の生き方』(中公新書ラクレ)を読むと、押井監督は「唯脳論」の立場から世界を見つめていることが分かります。

 この「唯脳論」とは何でしょうか? この言葉は解剖学者・養老孟司氏が提唱したもので、都市生活は伝統や文化、社会制度、言葉も含め、すべて脳の産物である、という考え方です。

 押井監督は「唯脳論」の立場から「この世界のすべては、ただ自分の脳が認識した世界に過ぎない」と考え、劇場アニメ版『攻殻機動隊』を生み出したのです。膨大な情報の海を泳ぐ私たちも、脳のなかで生きているようなもの、ということになります。

 脳のなかで生きていると、自分にとって都合のよいニュースしか知覚しなくなっていきます。明らかなフェイクニュースでさえも、その人にとってはリアルなニュースとなってしまうのです。脳のなかでの生活は心地よいかもしれませんが、真実とは何かを忘れてしまいます。

 リアルとフェイクとのボーダーのあやふやさを描いた『攻殻機動隊』は、『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』(1984年)や『機動警察パトレイバー2 the Movie』(1993年)などを手掛けてきた押井監督のテーマ性がはっきりと打ち出せた作品だったのです。

国籍に関係なく、更新され続ける『攻殻機動隊』

 虚実皮膜とも言える危うい世界観を『攻殻機動隊』で描き出した押井監督は、多くのクリエイターたちに刺激を与えました。ウォシャウスキー姉妹によるメガヒット作『マトリックス』(1999年)も、「唯脳論」にインスパイアされた作品だと言えるでしょう。押井監督を激賞したジェームズ・キャメロン監督は、その後SF大作『アバター』(2009年)の制作に着手します。

 ハリウッド実写版『ゴースト・イン・ザ・シェル』(2017年)では、草薙少佐役を人気女優スカーレット・ヨハンソンが演じています。ハリウッド実写版は、神山健治監督のブレイク作となったTVアニメシリーズ「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」の要素も取り入れていました。さまざまなクリエイターたちの手によって、『攻殻機動隊』はその後もヴァージョンアップを続けています。

 今回の『攻殻機動隊2.0』では、草薙少佐が仕事の合間に海でダイビングするシーンが3DCG化され、とても印象的に描かれています。草薙少佐は海へ潜る心境を「恐れ、不安、孤独、闇、そしてもしかしたら希望……。海面へ浮かび上がるとき、今までと違う自分になるんじゃないか そんな気がするときがある」と相棒であるバトーに打ち明けます。情報の海を毎日のように泳ぐ私たちも、たまにはデジタルツールから離れ、自然のなかに身を置いてみるのもよいかもしれませんね。

(長野辰次)

【画像】『攻殻機動隊』の物語を動かす、草薙素子とバトー(6枚)

画像ギャラリー

1 2 3