『ガラスの仮面』だけじゃない、美内すずえホラーの世界。70年代少女は震え上がった?
少女を震え上がらせる絶妙なアイテム
●伝説のおどろおどろしさ
主人公が生きる現代と伝説をリンクさせ、おどろおどろしい世界に仕立てるのも美内ホラーの魅力です。「村の掟」「呪われた一族」「鬼姫伝説」などの言葉が出てくるだけですでに、少女たちの前には異世界への扉が開かれます。『黒百合の系図』(1977)では、主人公の少女・安希子が不審死を遂げた母について調べていくと、次々と謎めいた過去が浮かびあがり……ついには自分が、ある特別な一族の最後の生き残りだと発覚します。
普通の女の子だったはずの安希子が、いつの間にか伝説のなかに入り込んでしまうという巧みな物語の運びで、読者も知らぬ間に同じ恐怖を味わわされるのです。
●恐怖とロマンをかき立てるアイテム
美内ホラーの世界に登場するアイテムもまた、絶妙に恐怖や異世界を感じさせてくれました。『妖鬼妃伝』(1981)には十二単などの古装束の人形が出てきますが、かわいらしいというより不気味で恐ろしく、この作品を読んでからは「自分の雛人形さえ怖かった」という人もいたものです。
『13月の悲劇』(1971)など、海外を舞台とした作品では、寄宿舎、洋館、石造りの地下室、修道女の黒いドレスなど、読者の日常生活にはないアイテムが満載で、恐怖とともに遠い世界へのロマンもかきたてられました。とはいえ、主人公はやはり同年代の少女なため、恐怖は身近に感じられるのです。
そして『パンドラの秘密』(1972)で印象深かったアイテムは、主人公の少女エイメ・リーンが常に首に巻いている黒いリボンでした。母親から「決して人前で外してはいけない。この下のものを人に見られたらお前は破滅する」と言い聞かされていた黒いリボン。その下にはいったいどんな秘密があるのか……読者はその謎とまがまがしい予感に引っ張られて、やがて驚愕の真実にたどり着くのです。(同作品は復刊を待ち望まれるもいまだ未復刊ですが、電子書籍版では読むことができます)
『ガラスの仮面』とは世界観の異なる美内ホラーですが、実は主人公の少女たちは『ガラスの仮面』の北島マヤと似ているところがあるかもしれません。みんな、おびえるだけでなく、恐怖の根源と戦うべく自ら行動する少女たちなのです。
かつて読んだ方はもう一度、未読の方はぜひこの機会に、美内ホラーの世界に触れてみませんか?
(古屋啓子)