1980年代の少女マンガ×SF・3選 “前世の仲間を探すブーム”を巻き起こす!?
1980年代の少女マンガ雑誌にはSF作品が掲載されていることが多く、なかでも傑作と呼ばれる作品は男女問わず高い人気を誇りました。少女マンガ誌を彩った人気作『OZ』『ダークグリーン』『僕の地球を守って』を紹介します。
崩壊した世界で男女の愛と人工知能の成長を描く
1980年代の少女マンガ雑誌にはSF作品が掲載されていることが多く、なかでも傑作と呼ばれる作品は男女問わず高い人気を誇りました。少女マンガ誌を彩った人気作を3つ、紹介します。
●『OZ』(作:樹なつみ)
1988年から「LaLa」本誌及び増刊に掲載された『OZ』は、1990年に勃発した核戦争により壊滅した人類の生き残りが地球規模の戦国時代を繰り広げる世界で、食糧不足や砂漠化など数々の問題に直面しながらも、戦前の科学者たちが残したとされる巨大シェルター「OZ」の存在を追う物語です。なお、本作の舞台は1990年の31年後、すなわち2021年となります。
凄腕の傭兵として名が売れている主人公の武藤ヨウ(ヨウの字はぎょうにんべんに羊/以下、ムトー)は、ある日世間知らずの天才少女フィリシア・メリッサ・エプスタインの護衛を命じられます。しかし「OZ」を支配するフィリシアの兄、リオンにより送り込まれたサイバノイド、1019(テン・ナインティーン)の登場により運命は急展開を迎え、ムトーはフィリシア、そしてナインティーンと共に「OZ」へと向かい旅立つこととなりました。
航空機事故による別れと再会、ナインティーンの人工頭脳の奥深くに眠るリオンとフィリシアの母親であるパメラを再現したAIの覚醒、サイバノイドとバイオロイドの中間である1024(トゥエンティフォー)の登場など、さまざまな出来事の末にフェリシアはひと足先に「OZ」へと迎え入れられます。しかしムトーはフェリシアの父親から「OZ」の正体を知らされ、潜入及び破壊を依頼されるのです。かつての教え子であるネイトらを伴い、「OZ」への侵入を果たしたムトーはフェリシアと合流、人類が残した負の遺産の後始末を付けるために最後の戦いを挑みます。
本作の見どころは数多く存在しますが、なかでも注目すべき点は登場するサイバノイド・バイオドロイドのAIが経験を通じて成長していく過程にあります。自己保存機能を持つAIが自己犠牲を決断できるまでに成長した場合、それは人の領域に達したと言えるのでしょうか。深く考えさせられる作品です。
人の夢を舞台に
●『ダークグリーン』(作:佐々木淳子)
――その日、世界中の人間が 同じ夢を見た。
主人公の美大浪人生、西荻北斗は「R-ドリーム」と呼ばれる夢の中で戦士ホクトとして不思議な少年リュオンと出会い、共に謎の敵「ゼル」と戦いを繰り広げます。「R-ドリーム」内の記憶が無い北斗と現実に戻る術を知らないリュオンは友情をはぐくみ、北斗は現実でのリュオンを探し始めますが、多くの難題が立ちふさがります。「R-ドリーム」内の死が現実の死となる過酷な状況のなかで北斗とリュオンは多くの仲間たちと出会い、徐々に謎に迫るのですが、その先に別れの運命が待ち受けていました。
本作は1983年から「週刊少女コミック」で連載されましたが、SF色が濃すぎるという理由で打ち切りを通告され、別雑誌「コロネット」に移籍して高い人気を獲得した、少女マンガを代表するSF作品です。1988年の第一部完結後も2002年には外伝作品の『リュオン』で復活を遂げ、2007年からは続編の『ディープグリーン』の連載が開始。シリーズ第3作の『ディメンショングリーン』も電子書籍で販売されるなど息の長い作品としてファンの支持を受け続けています。
●『僕の地球を守って』(作:日渡早紀)
北海道から引っ越してきたばかりの坂口亜梨子は、都会の雰囲気になじめずにいましたが、隣の家の少年、小林輪からは異様に懐かれていました。そんなある日、亜梨子はクラスメイトの小椋迅八と錦織一成の立ち話をのぞき見したことをきっかけに、「ムーン・ドリーム」の話を聞かされます。夢の中で迅八は玉蘭、一成は槐と呼ばれる女性で、合わせて7人の仲間と共に異星人の月基地で地球を見守って暮らしているといいます。やがて亜梨子もふたりと同じ夢を見始め、残りの4人の仲間を探すために雑誌の読者連絡欄に投稿、徐々に仲間を増やして行きます。しかし前世に目覚めた輪が、自身をかつての月の仲間、秋海棠であると名乗り始めたときから徐々に歯車が狂い始め、現存する月基地を操作するための7つのキイ・ワードを集めるための争いが勃発してしまうのでした。
1988年に「花とゆめ」で連載が開始された『僕の地球を守って』は読者の間に戦士症候群と呼ばれる、前世の仲間を探すブームを巻き起こしたほどの人気作です。作品の重要な要素であるキイ・ワード集めはファミコンで発売された『スターラスター』というゲームをモチーフとしていることでも知られています。
(早川清一朗)