マンガの巨匠たちの「デビュー作品」 意外なジャンルを描いていた作者も
今をときめく漫画家や、あの巨匠たちのデビュー作をご存じですか。現在とは異なるジャンルでデビューした人もいれば、その後の大ヒット作につながるプレ的作品で世に出た人もいます。漫画家人生のスタートとなったデビュー作には、さまざまな物語が詰まっています。
漫画家たちの原点に物語あり

どんな漫画家にも、プロとしてのスタートとなったデビュー作があります。たとえば鳥山明先生のデビュー作は1978年に「週刊少年ジャンプ」に掲載された『ワンダー・アイランド』。後に『Dr.スランプ』や『ドラゴンボール』などの大ヒットを飛ばすことになる作家のデビュー作ながら、読者アンケートの結果は最下位だったそうです。国民的漫画家にもそんな時代があったんですね。今回は、漫画家たちの意外なデビュー作をご紹介します。
※今回の記事では、「連載デビュー作品」ではなく、「初めて商業誌に掲載された作品」を取り上げています。
●マンガの神様も絶賛! 荒木飛呂彦先生のデビュー作
『ジョジョの奇妙な冒険』の荒木飛呂彦先生のデビュー作は、1981年に「週刊少年ジャンプ」に掲載された『武装ポーカー』。前年の第20回手塚賞で準入選を果たし(同回では入選作はなし)、そうそうたる審査員たちが絶賛した作品です。
審査委員長であり「マンガの神様」と呼ばれる手塚治虫先生は「ぬきんでておもしろい。やや大人向けだがスリルがあり、映画を相当見ていると思わせるすぐれた構図がある」と評し、ちばてつや先生は「会話のやりとりがイキで味がある」と、小説家の筒井康隆先生は「文句なしにおもしろかった」とコメントしました。
物語の舞台は西部劇の世界。すご腕のガンマン2人がお互いの銃をかけて(荒くれ者の世界では命を賭けるのと同じ意味)ポーカーゲームをする話ですが、画風こそまだ確立されていないものの、トリッキーなストーリー展開やシャレた会話、どんでん返しなど、随所に「ジョジョ」シリーズに通じるところが感じられます。
荒木先生本人はこの作品について「とにかく作品持ち込みで編集者をラストページまで読ませたいと思ったし、途中でページをめくるのをやめて見捨てたりしないでください…と願って描いた」と語っています。今、「ジョジョ」シリーズのページをめくる手を止められないのも、荒木マンガの根底に、同じ強い思いがあるからなのでしょう。
●高橋留美子先生のデビュー作は『うる星やつら』の原型
36年ぶりのTVアニメ化が発表され話題になっている『うる星やつら』。作者である高橋留美子先生の作品が初めて世に出たのは1978年のことで、「週刊少年サンデー」に掲載された『勝手なやつら』でした。高橋先生自身が振り返って「当時持っていたすべてを出し切った作品」と言っていますが、当時の編集長も高橋先生のことを「すごいのが来た、天才だ」と評していたそうです。
ちなみに、掲載当時の扉絵には「少年誌界に、20歳の女流作家デビュー!!」の言葉が躍り、女性漫画家の作品が少年誌に掲載されること自体が、まだまだ珍しい時代だったことがうかがえます。
物語は地球人の男の子を中心に、宇宙人や半魚人など人外も入り乱れてのドタバタ喜劇。タイトルが似ていることからもわかるように、『うる星やつら』の原型とされており、それはキャラ設定にもみられます。『勝手なやつら』の半魚人が語尾に「○○だっぴゃ」とつけるのを踏襲したのが、『うる星やつら』のラムちゃんの「○○だっちゃ」。高橋先生の世界観はすでに、デビュー時から確立していたのですね。