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パロディでしか見ない?マンガの「お約束」の原点 パンをくわえて走る元ネタは?

「食パンをくわえた少女」をはじめとする、マンガの「お約束」の数々。その用例とともに、「元ネタはいったいなんなのか?」を掘り下げてご紹介していきます。

「食パンをくわえて登校」の元ネタは?

綾波レイが「お約束」のパロディとして食パンをくわえて走る最終回が収録された『新世紀エヴァンゲリオン』DVD STANDARD EDITION 8巻(キングレコード)
綾波レイが「お約束」のパロディとして食パンをくわえて走る最終回が収録された『新世紀エヴァンゲリオン』DVD STANDARD EDITION 8巻(キングレコード)

「いっけな~い!遅刻遅刻ぅ~!」

 誰もが一度は見聞きしたことがあるであろう、このセリフ。聞いた途端、「食パンをくわえた少女」の姿が思い浮かびます。パロディとしてもこすられ続けている、もはやマンガの「お約束」の代表格です。

 ほかにもマンガには、こんなお約束といえるセリフ・描写が他にも多数存在しています。この記事では、そんなお約束の用例とともに、「パロディでしか見ないが、元ネタは何か?」の部分まで可能な限り掘り下げて考察します。

●食パンをくわえた遅刻少女

 まずは前述の「食パンをくわえた遅刻少女」。「マンガで見るけど現実ではまず見ない」でお馴染み描写です。少女マンガ、というかいろんなマンガの「お約束」ですが、もはやこすられすぎて、ネタ的に使用されているイメージの方が強いのではないでしょうか。

 1996年放送『新世紀エヴァンゲリオン』の最終回でも、綾波レイが「食パン少女」と化していました。しかし、遅刻の描写としてパンをくわえて走るというのは、あらためて考えてみると画期的です。

 この描写を有名にしたと言われているのが、1989年46号からビッグコミックスピリッツで連載されていた『サルでも描けるまんが教室』(著:相原コージ、竹熊健太郎)です。作者をモデルにした主役のひとり・竹熊健太郎が少女マンガにおいて「ただ一つ」と断言する「ウケるストーリー展開」として、「主人公が『ちこくちこく』と叫びながらあわてて家をとび出す」「このとき 主人公はかならずトーストを口にくわえている」という例を声高に叫びました。しかし、これは誰もが「あ~確かに」と思う「お約束」としての紹介であり、この描写は少女マンガというかマンガ全般によくある描写として、以前から定着していたことになります。

「食パン少女」の調査を長年行っているデザイナー・ほうとうひろし氏のTwitterに寄せられたツイートによると、マンガのなかで見つかった最古は、なんと1962年の『サザエさん』の一コマ。ワカメが食パンをくわえ、焦りながら「いってきまーす」と出かけています。

 そして、このほうとうひろし氏の調査に反応して、今度は映画作品でさらに古い目撃情報も投稿されています。それが、アカデミー賞最優秀作品賞を受賞し、日本では1948年に公開された名作映画『我等の生涯の最良の年』(ウィリアム・ワイラー監督)。こちらは少女ではありませんが、見てみると確かにメインの登場人物、アル・スティーブンソン(演:フレドリック・マーチ)の息子・ロブ(演:マイケル・ホール)がトーストをくわえ、急いで学校に向かうシーン(映画が始まって56~57分頃)があります。

 この描写を漫画家の先生のどなたかが真似したのかは定かではありませんが、80年以上の歴史があると考えると、パロディの見え方も少し重みが変わってくるのではないでしょうか。もちろん現実的に不可能な描写ではないので、パン食が日本に普及し始めたころに誰かが実際にやっていた可能性もありますが。

【画像】さまざまな「お約束」を定着させた名作マンガ、アニメたち (6枚)

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