原作改変? 初代ガンダムの子供向け絵本、本編とまったく内容が違ったワケ
ザクが遊園地に現れて大暴れ、襲われそうになった子供たちのところにガンダムが助けに来る…『機動戦士ガンダム』の絵本版が、TVシリーズ本編とまったく違うのはナゼ?
ザクが遊園地で大暴れ…

幼い子供の頃、お母さんやおじいちゃんに連れられて行った書店で、大好きなロボットアニメの絵本をおねだりした思い出をお持ちの方も多いことでしょう。
当時は当たり前のように楽しんだその絵本を、大きくなってふと見ると……あれれ? こんな話、テレビの物語には出てこなかったよなぁ? と、首を傾げたり、本編からのあまりの逸脱ぶりについ苦笑、もしくはちょっと腹立たしくなったり、なんて記憶をお持ちの方もいるでしょう。
たとえば、あの『機動戦士ガンダム』が放映された当時に発売された『主題歌のソノシート付き 機動戦士ガンダム』(朝日ソノラマ EM-165)という絵本は、敵ジオンのモビルスーツ・ザクが、本編に登場する子供たちが遊びに来ていた遊園地に現れ、遊園地を破壊、襲われそうになった子供たちのところにガンダムが助けにくる……といったお話です。
本編の物語にはこんなエピソードはなかったですよね。絵本ですから、もちろん各ページはそれに併せた画面になっていますが、そもそも、ザクがなんで遊園地に……と思いますよね。
当然ケースバイケースではありますが、「幼児」をユーザーとしたこうした商品は、本編の制作とは全く別立ての「版権物」にカテゴライズされています。当時の日本サンライズ(後にサンライズに社名変更)では、こうした版権物は「CM制作部」という部署が担当していました。
ここはTVアニメシリーズを制作しているスタジオとは違い、同社作品の「版権収入」に関する版権物用画稿などを主に管理制作していた場所で、本編には全く関わりません。絵本の文字稿や画稿もここが独自に作っていました。
では、どうしてこんな物語なの?
答えは簡単。2歳児、3歳児くらいから手にする絵本ですから、その子供たちにとってなじみやすく解りやすい物語でなくてはならないからです。残念ながら、ガンダム好きのファンの方や、修学児童に達している子供は購買層の想定ではありません。
こうした分野のものに関しても、よく「深堀り考察」をされて「実は、監督の構想の中にはこういうエピソードもあって……」なんて言い出す方がいますが、それは考え過ぎです。この手の商品に、現場の監督や演出家さんなどが関わることはまずないですし、チェックをすることも、私の知る限りではありませんでした。
とはいえ、スケジュール的な都合や予算などによっては、本編で活躍中のクリエイターにお願い出来ることもあり、このガンダム絵本に関しては、本編の企画とメインで脚本を担当した星山博之さんが文章を手がけています。彼もプロですから、当然、この仕事では何を求められているかを理解し、上記のような物語を作ったわけです。
クリエイター重視の現代の流れとは違い、この頃のTVアニメーションは制作会社主体のものであり、版権商品も同様。特に、クリエイターの嗜好や感性というのは、それが許された場でのみ発揮できたといってもいいでしょう。
それが正しいか正しくないかは、時代と環境次第で変わります。今見れば、こうした一見「作品無視」のようなものが当時の制作会社の収入を支える一角であり、それがなければ、クリエイターが創造性を発揮できる今のような環境は生まれなかったかもしれません。
時代を経た愛着ある作品には、ついつい理想的想像を重ねがちですが、実際はそうそう都合のいいものではなく、
「哀しいけど、これ、商売なのよね」
ということなのです。
【著者プロフィール】
風間洋(河原よしえ)
1975年よりアニメ制作会社サンライズ(現・バンダイナムコフィルムワークス)の『勇者ライディーン』(東北新社)制作スタジオに学生バイトで所属。卒業後、正規スタッフとして『無敵超人ザンボット3』等の設定助手、『最強ロボ ダイオージャ』『戦闘メカ ザブングル』『聖戦士ダンバイン』『巨神ゴーグ』等の文芸設定制作、『重戦機エルガイム』では「河原よしえ」名で脚本参加。『機甲戦記ドラグナー』『魔神英雄伝ワタル』『鎧伝 サムライトルーパー』等々の企画開発等に携わる。1989年より著述家として独立。同社作品のノベライズ、オリジナル小説、脚本、ムック関係やコラム等も手掛けている。
本文を一部修正しました(8月27日14時41分)
(風間洋(河原よしえ))