プロデューサーの逆鱗に触れてクビ? 『サザエさん』「三谷幸喜脚本」回はどんな話?
「妹思い、兄思い」は実は異色回?

三谷さんが執筆した作品のなかでは、「妹思い、兄思い」が2010年に再放送されています。いったいどのような作品だったのでしょうか。
ある夏の日、カツオと中島が友達の橋本くんをプールに誘いますが、橋本くんは妹の面倒を見なければいけないため来ることができません。「橋本って妹思いだなぁ」と、カツオは素直に感心します。そこへカオリちゃん、早川さん、花沢さんがやってきて、カツオと中島、橋本をハイキングに誘いました。カツオたちは大喜びで約束します。
一方、家ではフネとサザエが立て続けに風邪を引き、熱を出して寝込んでしまいました。カツオが浮かない顔をしているので波平が理由を聞くと、カツオは「母さんたちが寝てるのに、僕だけ遊びに行くわけには……」と言います。波平とマスオは優しくカツオにハイキングに行くよう促しますが、お弁当を作る人がいません。そこで手を挙げたのがワカメでした。
翌朝、ワカメは4時30分(!)に起きて、お弁当を作り始めます。微笑みながらおにぎりを握るワカメを、気になって早起きした波平とマスオが見守っていました。「お兄ちゃん 気をつけて行ってきてね」というワカメの手紙を見たカツオは、家を出ると帽子を取って「ありがとう、ワカメ」と一礼。お弁当を持って、喜び勇んでハイキングに出かけます。
ハイキングを満喫するカツオたちでしたが、お昼はカオリちゃんたちがみんなの分まで作った豪華なお弁当が出されました。男たち3人はなんとか完食しますが、持ってきたお弁当は手つかずのままです。「うちに持って帰って謝るよ」と苦笑いする中島くんですが、カツオは困り顔。お弁当を手つかずのまま持って帰ったら、ワカメが泣いてしまうんじゃないかとカツオは想像します。
夜8時になっても家に帰らないカツオを波平たちは心配しますが、カツオは近所の公園でワカメのお弁当を食べていました。心配顔のワカメと、「ワカメ、ごちそうさま」と言うカツオの笑顔でこのエピソードは終わります。
兄のためにお弁当を作るワカメ、妹のためにお弁当を残さず食べるカツオはもちろん、子供たちを優しく見守る波平とマスオをはじめ、登場人物全員の優しさが印象に残るエピソードです。誰も怒ったり泣いたりせず、ギャグらしいギャグも皆無なので、ある意味、珍しいエピソードかもしれません。とてもいい話なのですが、三谷さんの持ち味が出ているとは言えない回です。
「タラちゃん成長期」でプロデューサーの逆鱗に触れて『サザエさん』をクビになった三谷さんですが、後にカムバックを遂げています。それが、94年に上演された『音楽劇 サザエさん』です。榊原郁恵さんがサザエ、久本雅美さんがカツオを演じた舞台で、三谷さんは脚本のほか、劇中歌すべての作詞を手がけました。メインテーマ「歩いて帰ろう」は、松任谷由実さん作曲という豪華版です。また、2010年に放送された観月ありささん主演のドラマ『サザエさん』では、三谷さんが伊佐坂難物を演じています。
一度はクビになった三谷さんですが、結果的に非常に『サザエさん』と深い縁で結びついていたことになります。後に三谷さんは自作の『鎌倉殿の13人』について、「サザエ(政子)とカツオ(義時)が手を組んで、マスオ(頼朝)の死後に、波平(初代執権・時政)を磯野家から追い出す。しかも義時はタラちゃん(3代将軍・源実朝)を滅ぼしてしまう。フグ田(源)家が滅亡して、磯野(北条)家の鎌倉時代ができるというすごいドラマ」と説明していました(朝日新聞デジタル 2020年1月8日)。
きっと三谷さんは『サザエさん』への思い入れが深いのでしょう。ぜひまた、『サザエさん』本編の脚本を書いてもらいたいものです。
(大山くまお)

