『薬屋のひとりごと』「モノなし」宦官にも性欲はある 不憫でならない発散方法とは
シリーズ累計2700万部突破の大ベストセラー『薬屋のひとりごと』には、極めて珍しい特徴をもった人物が登場します。後宮を管理するため、生殖能力を失った男性、宦官(かんがん)たちです。歴史上の宦官の実態についてあげていきます。
華やかな後宮を支える男でなくなった男たち
『薬屋のひとりごと』は架空の中華風王朝を舞台に、薬屋の少女である猫猫(マオマオ)が活躍する後宮ミステリーです。作中に後宮を管理する美形宦官(かんがん)の壬氏(ジンシ)や高順(ガオシュン)が登場しますが、実際のところはどうだったのでしょうか。リアルな宦官(かんがん)についてみてみましょう。
●はじまりは奴隷から
宦官といえば中国が有名ですが、実は古代ギリシャや東ローマ帝国、イスラム世界、ベトナムなどにも生殖能力を失った官吏は多く存在しました。その始まりは戦争などによって手に入れた奴隷だったと言われています。敵の生殖能力を奪ってしまえば子供を作れないので、完全に支配できるということでしょう。『薬屋のひとりごと』のように後宮の妃たちを管理するうえで安心できるというだけでなく、官僚として使役する際に権力を子供に継承させないよう、あらかじめ生殖能力を奪っておく、という目的もありました。
子孫を残せない人間を作るというのは、権力者にとって都合の良いことだったといえるでしょう。
●宦官になるのは出世の道
時代が進むにつれて奴隷や刑罰で宦官にさせられたものだけでなく、自宮(じきゅう:自ら局部を切除する)して宦官になるものが登場します。中国では立身出世の王道は科挙(かきょ:官吏になるための試験)でしたが、多くの一般人は科挙に合格できるほどの勉強など出来ません。勉強できる環境を用意できる点で試験前に振り分けられているといえます。
そこで自宮すれば誰でもなれる宦官になって宮廷に仕え、一発逆転を目指すものが現れました。これは中国だけの事例ではありません。イスラムなどでも出世目的で宦官を目指すものが現れました。局部を切ってまで出世したいというのは現代人からすると想像を超えていることでしょう。
しかし自宮して宦官になったとしても、能力的には読み書きすらできないものが大半で、ほとんどの宦官は出世などできず奴隷同然の扱いを受けました。科挙に合格した官僚とは比べ物にならない地位の低さです。高位の宦官や王朝を揺るがすような悪徳宦官になれたのはきわめて少数だといえます。