アニメの声優はどう選ばれている? 意外と知られていない、必須スキル【この業界の片隅で】
意外と知られていない? 声優の必須スキル
これだけの激戦を突破しなければならないのですから、声優たちは常に必死になって、今より成長して勝ち抜き生き残るための手段を探しています。若い新人の中には、立ち話の中で、私にまで助言を求めてくる方もいます。
正直、こんな片隅の人間にアドバイスをもらってどうするんだと思わないでもないのですが、そんなことを言ってガッカリさせるのもかわいそうです。そこで、私が「単なる提案にすぎませんが」という前提付きでお答えしているのが、「瞬発力を強化するために引き出しを多くされては?」ということです。
アニメの収録は通常、「テスト」「本番」「ガヤ(人混みのガヤガヤ音)などの別録り」の順で進みます。本番中でも、収録を取り仕切る音響監督などから、「ここの演技はもっとこういうふうにしてほしい」というような、直しの指示が必ず入ります。
例えば、「も~、お兄ちゃんってば~」とシンプルに怒ったように演じたのに対し、「もっと甘えてまとわりつく感じを強くして下さい」と言われたとします。すると声優さんは、次のテイクで、その通りのお芝居ができなければならないのです。
練習する時間は与えられません。なぜなら、他の声優や収録スタッフを、待たせることになってしまうからです。そこにいる全員の注目が集まるなかでやらなければならないという、重圧もあるでしょう。「できません」という答えはありえません。パニックになって涙を流そうが、「できない」と自ら言った人にチャンスが与えられることは、おそらく二度とないからです。
この収録時の対応力を、私は「瞬発力」と呼んでいます。声優の必須スキルとして、意外と知られていませんが、オーディションでは例外なく重視されます。瞬発力の源となるのは、「演技の」引き出しの多さでしょう。これ以上は本格的な演技論になってしまうので語りませんが、過去の人気キャラの声真似や特徴的な声質に頼るだけで、身につくものではないはずです。
私はミーハーな意味でなく、声優が好きです。
どんな人気声優であっても、数限りない挫折と苦悩を常に踏み越えながら、想像もできないような不安とプレッシャーの中で、ひとかけらの夢と希望をつかもうとしています。そんな人たちを、応援せずにいられるでしょうか。何の力もない私は、せめて心からのエールを送りたいと思います。
がんばれ、声優さん!!!
(おふとん犬)