駅伝シーズンに読み返したい『奈緒子』 「タスキ」が日本人の心を揺さぶる?
日本人が大好きな陸上競技「駅伝」。倒れ込みながらも「タスキ」を次の走者につなぐ姿は、観る者の胸を熱くさせるものがあります。そんな「駅伝」の世界を題材にしたのが、人気マンガ『奈緒子』でした。上野樹里主演作として実写映画化された『奈緒子』では、ブレイク前の人気俳優が大熱演しています。
『いだてん』の金栗四三が提唱した、箱根駅伝
お正月の風物詩のひとつに、「駅伝」が挙げられます。なかでも例年1月2日、3日に日本テレビ系で全国中継される「箱根駅伝」こと「東京箱根間往復大学駅伝競走」は100年の歴史を誇り、大変な人気があります。2019年は東海大学が総合初優勝を遂げ、青山学院大学の5連覇を阻止。往路30.7%、復路32.1%(ともにビデオリサーチ調べ、関東地区)と高視聴率を記録しています。
もともと駅伝は、NHK大河ドラマ『いだてん』で有名になった日本初のマラソンランナー・金栗四三が1912年のストックホルム五輪で惨敗し、将来のマラソンランナーたちを育成するために提唱したことが始まりでした。箱根駅伝でも最優秀選手には、金栗四三杯が贈られることになっています。
それにしても日本人は駅伝が大好きです。各走者がチームのために献身的に走り、次の走者に「タスキ」をつなぐ瞬間に、ドラマ性を感じてしまうようです。2019年の「新語・流行語大賞」にラグビー日本代表チームのスローガンだった「ONE TEAM」が選ばれたように、多くの日本人は駅伝の代表選手たちがひたむきにチームプレーに徹する姿に、日本人ならではの国民性を感じてしまうのかもしれません。
9年間連載が続いた陸上マンガの金字塔
そんな学生駅伝を題材にしたのが、坂田信弘原作、中原裕作画の人気マンガ『奈緒子』でした。「ビッグコミックスピリッツ」(小学館)にて、1994年から2003年まで連載が続いた、ロングランヒット作として知られています。
タイトルは「奈緒子」ですが、物語の主人公は「日本海の疾風」と呼ばれる天才ランナー・壱岐雄介です。波切島で生まれ育った雄介は、幼い頃に漁師だった父親を事故で失うという悲劇に遭遇しますが、父親譲りの健脚ぶりで将来を有望視されるスプリンターへと成長するのでした。
物語ががぜん盛り上がるのは、中学に入学した雄介が長距離に転向し、初めて参加する「全国中学校駅伝大会」です。アンカーに選ばれた雄介までタスキを繋ごうと、陸上部の先輩たちは懸命に走り抜きます。同じ区間を走るライバルとの心理的な駆け引きも、ディテールたっぷりに描かれています。チームみんなの想いを背負った雄介は、途中で何度も心が折れそうになりながらも、ゴールに向かって突き進むのでした。
ずば抜けた力を持つ雄介がチーム全体を引っ張り、また雄介もチームのみんなに支えられることで潜在能力をより発揮することになります。自分ひとりではないから、最後まで走り切ることができる。「駅伝」という競技の魅力を『奈緒子』は存分に伝えてくれます。