【地上波初放送】映画『翔んで埼玉』 ギャグの裏に隠された、意外な「テーマ性」とは
ハリウッド大作『ジョーカー』に通ずるテーマ性?

映画『翔んで埼玉』は興行的に成功しただけでなく、第62回ブルーリボン賞作品賞を受賞し、さらには第43回日本アカデミー賞でも優秀作品賞ほか最多となる12部門で優秀賞に選ばれています。コメディ映画がここまで賞レースを賑わせることは異例のこと。今回の日本アカデミー賞受賞作品を俯瞰してみると、あることに気づきます。
同じく優秀作品賞に選ばれた人気コミックの実写化映画『キングダム』は、戦乱が絶えない古代中国で奴隷の身分から将軍を目指す若者、信を主人公にした歴史アクションものです。優秀アニメーション作品賞の『天気の子』は、社会福祉に頼らずに自分たちの力で生きようとする少年少女たちの姿を描いた恋愛ファンタジーです。優秀外国語作品賞には、ホアキン・フェニックスの怪演が話題となった『ジョーカー』が選ばれています。『翔んで埼玉』も含め、これらの作品はどれも「格差社会」をテーマにしていることで共通しています。
映画は「時代を映し出す鏡」であり、ヒットした映画には、その時代を生きた大衆の心理が投影されていると言えるでしょう。『キングダム』は時代もの、『天気の子』はファンタジーアニメ、『ジョーカー』はバイオレンス色の強いサスペンスとして、それぞれ現代社会で深刻化している格差問題を扱っています。
『翔んで埼玉』は、そんな格差社会を笑い飛ばしたコメディだと解釈することも可能です。マウンティング化された職場や学校で忖度しながら過ごすことにお疲れ気味な人たちは、誰にも気兼ねすることなく思いっきり大笑いできるものを欲していたのではないでしょうか。自虐的な埼玉県民の姿に笑いながらも、地域格差を煽る東京の為政者に埼玉県民たちが怒りを爆発させるクライマックスは、爽快さを感じさせるものとなっています。
名作と呼ばれる映画には、観た人がそれぞれ独自の解釈を楽しむ「深読み」の面白さがあります。『翔んで埼玉』は名作というよりも迷作(もしくは珍作)と呼んだほうがふさわしいかもしれませんが、主演した二階堂ふみとGACKTは共に沖縄生まれです。沖縄には米軍基地をめぐる問題が今も残されています。それまで虐げられてきた民衆がいっせい蜂起する『翔んで埼玉』のクライマックスは、『ジョーカー』の後半の怒涛の展開にも重なりますし、現実に日本各地で起きている地域格差をめぐる問題も彷彿させるものがあります。
おバカなコメディと思われがちな『翔んで埼玉』ですが、意外と日本人の深層心理に訴えかけるものがあったのかもしれません。
(長野辰次)
※映画『翔んで埼玉』は、2020年2月8日(土) 21:00~23:20、フジテレビ「土曜プレミアム」枠で放送されます。