『ガンダム』ニュータイプ「シャリア・ブル」の憂鬱 歯車が違えばシャアの副官に?
富野監督と安彦さんで評価が分かれた理由とは…
シャリア・ブルが歩む可能性のあった世界線、そのひとつが「トミノメモ」と呼ばれるものになります。トミノメモは富野喜幸(現:富野由悠季)監督が書いた、『ガンダム』が52話だった場合のシノプシスです。全43話に短縮されたことで幻となった部分も多々ありました。このトミノメモは36話までほぼTVアニメと変わりません。
このトミノメモによると、シャリア・ブルは第40話「シャリア・ブル激進」で登場します。この時に搭乗するMS(モビルスーツ)は「ゲルググ」でした。ただしTVアニメとは違い、ブラウ・ブロの原名で、「ララァ・スンが使うものの前期タイプ」と設定されています。
ここでの運命はほぼTVアニメ版と変わりませんが、シャリア・ブルがシャアの心にあるザビ家への怨念を察知していることが描かれている点、その初陣で「ワッケイン」の「マゼラン」を撃沈している点が異なりました。
さらに大きく違うのが富野監督の執筆した小説版です。ギレンによってキシリアの動向を探るというスタート地点は一緒ながら、シャアに殺されることなく副官的なポジションとなり、その右腕となってニュータイプ部隊をまとめました。小説版での乗機は「MS-09R リック・ドム」で、最終戦でブラウ・ブロに乗り換えています。
小説版では、シャアがシャリア・ブルに出会った時にはララァが戦死していたという点が大きく違っていました。それゆえにシャアは信頼を寄せ、シャリア・ブルも心服していたのでしょう。作中では、シャアがシャリア・ブルの前でマスクを外して素顔を見せていました。
この小説版がベースになっていることもあり、ゲーム「ギレンの野望」シリーズのキャスバル編で、シャリア・ブルはシャアの副官ポジションとして活躍しています。ある意味でTVアニメ版とは真逆の関係といえるかもしれません。
こういった富野監督の描いたシャリア・ブル像と真逆の位置にあるのが、漫画『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』でしょうか。こちらのシャリア・ブルは過剰なまでにプライドが高い、野心的な人物として描かれていました。
これは『ORIGIN』を描いているのが安彦良和さんだからかもしれません。『ガンダム』のキャラクターデザインとして有名な安彦さんですが、病気によりTVアニメ版は途中で降板しています。その降板した時期に登場したのがシャリア・ブルでした。
つまり安彦さんにとってシャリア・ブルには思い入れがないわけです。一説によると、劇場版制作の際に富野監督がシャリア・ブルを登場させるか考えた際、「いらない」といったのが安彦さんだとか。
その真意はともかく、富野監督と安彦さんの抱くシャリア・ブル像はまったく違うものということは確かでしょう。はたしてシャリア・ブルの実像はどんなものだったのでしょうか。たった1話しか登場していないキャラクターであってもいろいろと考察できる。そこが今なお古びない『ガンダム』の大きな魅力なのかもしれません。
(加々美利治)


