のんが「カワイイけどヤベー奴」役のマンガ原作ドラマ 「実写化史上最高」など大絶賛の理由は?
DMM TVで独占配信中のドラマ『幸せカナコの殺し屋生活』は、全方位的に「実写化大成功」といえる出来でした。主演ののんさんを筆頭に、絶賛された理由を解説します。
「13役」の声をこなす齋藤飛鳥さんもすごい

DMM TVで配信中の、若林稔弥さんの人気マンガ原作のドラマ『幸せカナコの殺し屋生活』が大好評を博しています。YouTubeで無料公開された第1話は9日間で80万回再生を超え、Filmarksドラマでのスコアは4.2点(2025年3月9日時点)です。「実写化史上最高傑作」とまで言われるほど、絶賛の嵐になった理由はどこにあるのでしょうか。
●「殺しの才能を発揮するやべーやつ」にのんがハマりまくり
『幸せカナコの殺し屋生活』のあらすじを簡単に述べると、「ブラック企業を辞めたOLの転職先が、待遇はホワイトな殺し屋の企業だった」というものです。人殺しというこの世でもっとも許されざる罪を犯している企業のはずなのに、勤務条件は恵まれて福利厚生も充実しているという「ギャップに笑ってしまうブラックコメディー」となっています。
そして、このドラマでほぼ満場一致で絶賛されているのは、主人公の「西野カナコ」を演じたのんさんです。カナコは「初めこそ人殺しをためらっていたはずなのに、いざ殺(や)ってみるとすごい才能の持ち主だし、なんならノリノリで殺っているようさえ見える」という、下世話ないい方をすれば「やべーやつ」です。
彼女を下手に演じてしまったり、キャスティングミスがあったりすると、その人殺しへの葛藤や心の闇が生々しくなりすぎて、原作の絶妙なバランスが崩れて笑えなくなる、といった可能性もあったでしょう。
しかし、のんさんは実際に天真らんまんな印象が前提にありつつも、複雑な感情や狂気的な面を見せる様も上手いという、このカナコを演じるにふさわしい特徴、才能の持ち主であり、結果として(いい意味での狂気を感じさせつつも)ちゃんと笑って好きになれて応援できる主人公として、みごとにハマっていたのです。
のんさんは、近年では2022年の映画『さかなのこ』や、2024年末に公開された映画『私にふさわしいホテル』など、「好きなことには猪突猛進だけど、傍若無人な振る舞いをしまくり」な役を完璧にこなしている実績もありました。今回ののんさんの役は、彼女が演じてきた「すごい才能の持ち主だけどやべーやつ」の集大成ともいえるでしょう。
さらに、彼女の相棒になっていく(?)先輩「桜井」役の藤ヶ谷太輔さんも素晴らしいハマり役でした。桜井は基本的には無表情かつ、口癖が「殺すぞ!」のキャラです。
こちらも下手をすれば、ただイヤな人物にしか見えなくなってしまいそうなところを、藤ヶ谷さん本人の魅力、そして絶妙な声のトーンの変化や演技の「間」によって、下世話な言い方をすれば「ツンの割合が多すぎるツンデレ」として大好きになれます。ちなみに、社長役の渡部篤郎さんは強面ながら「けっこうデレの割合が多めのツンデレ」で、言うまでもなくとてもハマっています。
●コメディー演出、アクション、「自己肯定」の物語であることも素晴らしい
監督を務めたのは英勉(はなぶさ つとむ)さんで、過去に『賭ケグルイ』や『映画 おそ松さん』『東京リベンジャーズ』など、これまでさまざまなマンガの実写化作品を手がけています。
作品によってはやや大仰な演技演出やコメディー演出をすることもあって評価は分かれがちですが、今回は原作がすでに極端な設定のコメディーであるため、少々の過剰な演出はむしろ魅力になっていますし、攻めている原作再現も見事に作品に昇華されていました。
たとえば、カナコが「いやいやいやいやロップイヤー」「ムリムリムリムリカタツムリ」などと言って、肩にその動物が登場して心の声を代弁するというギャグも忠実に再現しています。
そもそもが「イマジナリーフレンド」のような、本来は見えない存在なので、実写で出してもそれほど違和感がないですし、肩に動物がいても似合うのんさんの魅力、13役もある動物たちの声をそれぞれで演じ分けている齋藤飛鳥さんの演技もキュートで、とにかくもう「かわいい!」という感情でいっぱいになります。
さらに、アクションのクオリティーも高く、ゆるい雰囲気のコメディーからの本格的な銃撃戦やと格闘の見ごたえも、しっかりとあります。2017年の『東京喰種トーキョーグール』や、2021年の『ザ・ファブル 殺さない殺し屋』でも高く評価された、アクション監督である横山誠さんの手腕も注目されるべきでしょう。
そして、何より重要なのは原作から通底している、気軽に笑えるコメディーと同居している暗い感情と、それを使った「理不尽への反抗」と「自己肯定」の物語です。たとえば、カナコの「殺し屋の仕事を見ていなかった数秒であっさりとこなす」姿は、ギャグとして機能している一方、前職で食事や仕事をすぐに終えるように上司に強制されていた彼女の悲しさ、パワハラの問題を示したものにもなっています。
それ以外にも、日常的に遭遇する悪行に怒りをつのらせている人は現実にもたくさんいますし、その被害を受けた人は何も悪くないはずなのに、自分を責めたり、否定したりしてしまうこともありうるでしょう。その問題提起と優しい目線や、第2話でのこれから痴漢に制裁を下そうとするカナコの言葉に涙し、勇気と希望をもらえた人はきっと多いはずです(でも人殺しは現実ではダメ、絶対)。
総じて、ドラマ『幸せカナコの殺し屋生活』はハマり役のキャスト、原作への理解とリスペクト、コメディーとシリアスのバランス、そして理不尽への反抗と自己肯定という優しさと、全ての要素を「しっかりおさえた」からこそ大成功しているといえます。
筆者は試写で現在配信中の3話目以降も鑑賞しており、今後も見どころは多々あります。藤ヶ谷さんがさらに「惚れてしまうやろ!」となる魅力を見せている点や、その恋のライバル(?)になる刑事の「竹原カズオ」役の矢本悠馬さんのみごとな三枚目演技と意外なかっこよさにも要注目です。
(ヒナタカ)