ドラマ版より少し先に完結した原作『JIN』 正反対のラストに影響を与えた「名作映画」とは
大沢たかおさんや綾瀬はるかさんら豪華キャストでドラマ化された『JIN- 仁-』は、原作と異なる結末が描かれたことでも有名な作品です。本作は終わり方のほかにも、大きく改変された点もあり原作ファンからさまざまな声があがりました。
ドラマ版の最終回は原作と異なるも号泣?

現代から幕末へタイムスリップした医師の活躍を描いたドラマ『JIN-仁-』(原作:村上もとか)は、2009年から2011年の間、2期にわたり放送された人気作品です。原作マンガから改変された点が多いことでも知られ、特に結末は大きく異なる展開で話題を呼びました。
物語は原作、ドラマ版ともに外科医として働く「南方仁(演:大沢たかお)」が、病院に搬送されてきた頭に奇形腫瘍を抱えた「謎の男」ともみ合った衝撃で、階段から落下し幕末の江戸時代へタイムスリップするところからはじまります。
降り立った江戸で仁は、現代医学の知識を駆使して、当時は治療法のなかった難病を次々に克服していきます。梅毒の特効薬である抗生物質の「ペニシリン」を、青カビから生成するエピソードなど、発展途上の医療技術と向き合う仁の挑戦が見どころです。また、仁が歴史上の偉人「坂本龍馬(演:内野聖陽)」と出会い、史実では若くして殺される彼の運命を変えようと奔走する物語も描かれました。
ドラマ版では、現代の仁の恋人として、花魁「野風」と瓜ふたつのオリジナルキャラクター「友永未来」(どちらも中谷美紀さんが演じた)が登場しています。また、原作で命を落とす咲の兄「橘恭太郎(演:小出恵介)」が生き延びるなど、独自の展開や設定が数多く盛り込まれていました。さらに、原作の仁は江戸で生きる覚悟を早々に固め、あまり深く悩まないのに対し、ドラマ版の仁は涙もろく、決断に迷いを見せるといった性格の違いも大きな特徴です。
物語終盤、仁は龍馬の命を救えなかったものの、龍馬の血を浴びたことで彼の意識が脳内に入り込むという状態になりました。そんな状況のなか、長年仁に協力していた旗本の娘「橘咲(演:綾瀬はるか)」が腕を撃たれて緑膿菌感染症になり、仁は彼女を救うため、脳内の龍馬の力によって現代へ抗生物質のホスミシンを取りに戻ることになります。
そこで、「謎の男」は江戸から現代に戻ってきた仁自身だったことが明らかになり、現代の仁ともみ合いの末、薬とともに江戸へ帰ってきます。そして、咲の命を救いふたりは結ばれ、江戸の世界で医学に貢献していきました。
一方、現代に残された方の仁は、江戸時代から戻ってきた仁の記憶が共有され、江戸時代の自分の行動の影響で現代が少し変わっていることに戸惑いと取り残されたような孤独を感じつつ、医師として働き続けます。そして、脳内の龍馬の呼びかけもあって世界の医療過疎地を回って人びとを助けるようになって10年後、仁はフランス人と結婚した野風の子孫「マリー・ルロン」と出会い、そこでついに江戸時代で咲と結婚したもうひとりの自分との記憶を共有するのでした。
一方ドラマ版では、もみ合いの末に仁は現代に取り残され、薬だけが過去に届いて咲は一命を取り留めます。その後、残された仁は現代で過去について調べると、自分がいた痕跡は消えていましたが、江戸で自身が開業した診療所「仁友堂」と、そこで活躍する医師たちの記録を発見するのです。
薬で命を取り留めた咲は、余命宣告を受けた野風が産んだ娘を養子に迎えます。仁との記憶は徐々に薄れていきますが、最後まで彼を慕っていたことが、子孫にあたる「橘未来(演:中谷美紀)」から貰った手紙で明かされました。その後、医師として患者を救い続けることを決意した仁が、脳腫瘍で緊急搬送されてきた未来の手術を担当するところで終わるという、原作とは対照的な切ないラストを迎えました。
ドラマの結末に関して、原作も読んでいる視聴者からは「原作とは真反対のラストだったけど、仁がいなくなってからの咲の生涯が一途すぎて号泣だった」「仁友堂メンバーを歴史書で見付けるシーンは本当に感動した」といった声があがっていました。
ちなみに、原作マンガはドラマ第1シリーズと第2シリーズの間の、2010年11月に完結しています。原作者の村上さんは2017年3月に開催された「村上もとかスペシャルトークショー~幕末を駆け抜けたJIN‐仁‐~」で、ラストの展開をどうするか長く悩んでいたことを明かしました。村上さんは、仁の性格の違いなどもあるドラマ版が悲しい終わり方になることを予想し、自分はそうではない結末を描きたいと考えていたそうで、そんななかである映画に出会います。
それは、『JIN-仁-』完結の4か月前にあたる2010年7月に公開された、ピクサーのアニメ映画『トイ・ストーリー3』です。その「みんな不思議に幸せになる」結末を観てとても気に入ったという村上さんは、世間の予想とは逆をいこうと、上記のようなハッピーエンドの結末を描くことを決意したことを語っていました。
「トイ・ストーリー」シリーズはその後2019年に『4』が作られますが、2010年当時『3』は主人公「ウッディ」ほかおもちゃたちと持ち主「アンディ」の別れが描かれ、「完璧なラスト」と批評家からも観客からも絶賛される、大団円を迎えていました。全くジャンルの違う作品ですが、切ない別れはありつつもまた別の幸せを見付ける、という点は『JIN-仁-』と似ているかもしれません。
(LUIS FIELD)