木村拓哉が“かませ犬”に? 「あすなろ抱き」大ヒットも玉砕していた『あすなろ白書』
「絶対的主役」というイメージがすっかり定着している俳優の木村拓哉さんですが、20代の頃には意外な役どころを演じていた時期もありました。なかでも『あすなろ白書』で見せた、報われない当て馬役は、今となってはきわめて貴重な姿といえるでしょう。
キムタクの「俺じゃダメか?」で落ちない、だと?

トレンディドラマが全盛だった平成初期には、『あすなろ白書』『ロングバケーション』『ラブジェネレーション』など数々のヒット作が生まれました。これらの作品に出演していた木村拓哉さんは、1990年代後半から2000年代前半にかけて存在感を増し、やがて「絶対的な主役」として不動の地位を築いていきます。
そのなかでも『あすなろ白書』は、今では想像しにくい「レアなポジション」の役柄に挑んでいた、特別な作品といえるかもしれません。
本作は柴門ふみ先生の同名コミックを原作に、北川悦吏子さんが脚本を手がけた青春群像ドラマで、1993年にフジテレビの月9枠で放送されました。物語の中心となるのは、天真爛漫な主人公「園田なるみ(演:石田ひかり)」と、暗い影を抱えた青年「掛居保(演:筒井道隆)」の恋愛模様です。ふたりを含む大学で出会った男女5人が「あすなろ会」というグループを結成し、友情と恋愛の狭間で揺れ動く姿が描かれていきます。
木村さんが演じた「取手治」は、「あすなろ会」のムードメーカー的存在です。お調子者ながら恋愛には一途で、なるみにひと目惚れして以来、ずっと密かな想いを寄せ続けていました。
そして第2話では、掛居への想いに苦しみ涙する、なるみを前に、抑えていた気持ちが爆発します。彼女を後ろから抱き締め、「俺じゃダメか?」と耳元で問いかけた後、「好きだ」と告白するのです。このバックハグは「あすなろ抱き」と呼ばれ、当時の女性視聴者を中心に大きな話題となりました。
もしこれが木村さん主演のドラマであれば、ヒロインと結ばれるハッピーエンドが待っていたでしょう。しかし『あすなろ白書』における取手の役どころは、あくまで主人公たちの恋愛を引き立てる「当て馬」です。やがて、なるみから「私、取手くんとは付き合えない」「掛居くんが好きなの」と告げられ、切ない失恋に終わります。
それでも取手は、なるみの恋を心から応援し、ときに彼女を支えます。実はその後、紆余曲折の末にふたりの交際がスタートするものの、まだなるみの気持ちが掛居にあると悟った彼は、自ら身を引く決断を下すのです。
どこまでも報われない役どころでしたが、木村さんが演じた取手の真っすぐで誠実な姿に、当時多くの視聴者が心を動かされました。「本命の掛居くんより取手派だった」という声も少なくありません。なおこの作品をきっかけに木村さんは一躍ブレイクを果たし、恋愛ドラマに欠かせない存在へと躍り出ます。
ちなみに『あすなろ白書』以前の木村さんはクールな印象が強く、実際、暗い役どころを演じることが多々ありました。当初は本作でも、内面に闇を抱えた掛居役を演じる予定だったそうです。しかし、そのイメージを変えたいという木村さん本人の希望もあり、最終的に取手役を演じることになったといいます。
もし掛居を演じていたら、「キムタク」のイメージは今とはまったく異なるものになっていたかもしれません。
(ハララ書房)