マグミクス | manga * anime * game

『果てしなきスカーレット』以前からあった「細田守の単独脚本」への意見 問題点は「企画段階」にある?

誹謗中傷をどう思っているのか

映画『果てしなきスカーレット』で細田監督の実体験が反映された「看護師」のキャラ・聖 (C)2025 スタジオ地図
映画『果てしなきスカーレット』で細田監督の実体験が反映された「看護師」のキャラ・聖 (C)2025 スタジオ地図

●戦争という世界の大きな問題と、身近な経験が上手く融合していない

 細田監督が今回の『果てしなきスカーレット』のアイディアのもとにしたのは、「コロナ禍がやっと明けて日常が戻ったかと思ったら、それを打ち砕くように世界のいろいろな場所で戦争が起こった」ことでした。細田作品のなかでは、例外的に「身近ではない世界の大きな問題」に向き合った企画であり、さらに、シェイクスピアの舞台劇(戯曲)『ハムレット』と、ダンテの抒情詩『神曲』からの影響も明言しています。

 同時に今回も「コロナに感染して、看護師たちの優しさに救われた」という、細田監督自身の経験も反映されていました。そのため、看護師の「聖(ひじり)」というキャラクターが生まれたそうです。

 しかし、今回の『果てしなきスカーレット』で批判が寄せられている理由には、「中世ヨーロッパ風の世界に日本の看護師が迷い込む異物感」や「渋谷のミュージカルシーンの唐突さと共感性羞恥心」などもあり、やはり細田監督のやりたいことが、前述した「戦争という大きな問題」と上手く融合していないと思ってしまいます。

●ネットやSNSの批判を無視しているのかもしれない

 そんな細田監督は、『竜とそばかすの姫』公開時(2021年)のファミ通.comの記事で「エゴサーチはまったくしないですね」と明言しています。その理由は「このぐらい誹謗中傷が広がっていると、マイナスなことばかりですから、やめておいた方がいいでしょう。エゴサーチで自分のメンタルを削っている場合ではありません。自分の心のHPをきちんと守ってクリエイティブに使った方がいいと思います」とのことでした。なるほど正論かもしれません。

 その『竜とそばかすの姫』の企画のきっかけは、「生まれたときからインターネットのある世界で自分の娘がどう生きていくのか」と細田監督が考えたことでした。種々のインタビューで、細田監督は同作で「ネットを肯定的に描いている」とも語っています。

 しかしながら、実際の本編では「ネット上での誹謗中傷」や「自らを正義だと信じている自警集団」など、SNSのネガティブな面のほうが目立っていることはまだしも、その誹謗中傷や自警集団の描写がさすがに極端すぎることや、それらへの「冷静で真っ当な批判」がほとんど見られないことが気になりました。

 たとえば、「川で子供を救ったことと引き換えに命を落とした母親」に関するニュースへの、「他人の子供を助けて死ぬなんて、自分の子供に無責任だ」「人助けなんて、善人ぶるからこうなるんだ」というネットの意見は、「そういう暴言を吐く人はほとんどいないのでは?」と、誹謗中傷そのものへの「解像度の低さ」を感じてしまいます。こういった意見を劇中に出すなら、「失われた人命に、なんてひどいことを言うんだ!」という怒りのコメントが多数つく、という描写もリアリティーのために必要でしょう。

 こうした点を見ると、細田監督は「ネットやSNSには誹謗中ばかりがあふれ返っていると思っている」「真っ当な批判というものは存在ごと無視しているのではないか」と怪しんでしまいます。

それだけでなく、細田監督のインタビューからは、「スタッフの意見を聞いて物語を調整した」というような記述はほとんど見かけません。どうしても「細田監督のエゴが働きすぎていないか」「ネットやSNSだけでなく周りの意見も聞いていないのではないか」「周りが“イエスマン”ばかりになっているのでは」などと、もちろん推測にすぎませんが、思ってしまうのです。

●『果てしなきスカーレット』興行的不振は問題を見直すきっかけか

 やはり最近の細田作品は、脚本というよりも企画段階で生じている物語上での不備を感じてしまいます。

 ある意味で希望となるのは、今回の『果てしなきスカーレット』が、公開から3日間で興行収入2.1億円でスタートし、前作『竜のそばかすの姫』の8.9憶円との対比で23.6%という厳しい結果になったことです。

 これまでは(『未来のミライ』を除いて)細田監督が単独で脚本を手がけるようになってからの方が、『サマーウォーズ』や『時をかける少女』より興行収入が良かったため、関係者が意見を言えなかった、細田監督自身も反省しなかった可能性もあります。

『果てしなきスカーレット』で興行的な面で「痛い目をみた」からこそ、今度こそ脚本もしくは企画段階から、細田監督はもちろん関係者も「問題を見直す」きっかけになると思うのです。また、細田監督が素晴らしい作品を送り出してくれることを、期待しています。

(ヒナタカ)

【画像】え、「何だ急に」「ハムレットじゃなかったのか」 コチラが『果てしなきスカーレット』でいきなり出てきた話題の「現代の渋谷」の場面です

画像ギャラリー

1 2

ヒナタカ

映画ライター。WEB媒体「All About ニュース」「ねとらぼ」「女子SPA!」「NiEW(ニュー)」、紙媒体「月刊総務」などで記事を執筆中。オールタイムベスト映画は『アイの歌声を聴かせて』。

Xアカウント:https://x.com/HinatakaJeF

ヒナタカ関連記事

もっと見る

編集部おすすめ記事

アニメ最新記事

アニメの記事をもっと見る